常に流れる

ぜんぶ、すてれば

 常に変化の波に乗っていく、今がすべて、ということ。

 

P32

 最近の若い人に「安定志向」の傾向があるそうです。

 変化が激しい世の中で、少しでも落ち着けるよう願う学生も多いのだとか。

 僕が言いたいのは一つ。世の中に安定というものは存在しません。

 永久に存続する企業もないし、自治体だっていずれは消えていくと言われます。

 そもそも僕たち人間が生かされている自然世界そのものが、

 常に流れ、変化をし続けているのであって、今日と明日で一つとして同じものはない。

 一日単位では気づきにくい微々たる変化だったとしても、

 大きな流れの中では激動している。

 そんな世界の中で必要になるのは、安定を求める心ではなく、変化に対応する力。

 冷たい風を一瞬感じて立ち止まる力。

 そして、足先の方向をクルッと変えて、また颯爽と歩き出す力。

 変化に強い自分を鍛えていくことを、若い人にはおすすめします。

 

P132

 台湾に生活の拠点を移して、もう二十五年以上が経ちました。

 人情深く、どこか懐かしい田舎感覚の文化が性に合って、

 あれよあれよと現地企業で働くことになり、

 気づけばこんなに時間が経ったという感覚です。

 海外で暮らそうと思ったきっかけは、

 成長期の鈴屋でリーダーの一人をやらせていただいたのですが、

 十七年を経て、もう居場所がないなと感じたから。

 その時期、僕にはいろいろな誘い話や

「あの件はどうなっているんだ」と裏から聞き取ろうとする電話がひっきりなしで、

 煩わしく感じていたのも正直なところ。

 なんとなく、環境も自分が望まない方向に変わっていくように感じ、

 身を引こうを決めたわけです。

 決めたら行動は早い。次の日には空港に行って、

 パッと目に入ったシンガポール行きのチケットを買って、飛行機に乗っていました。

 日本におけるキャリアの痕跡を残さず消し去るには、

 いなくなるのが一番だと思ったから。

 この時点ではすっかりシンガポールで暮らすつもりでいたけれど、

 たまたまその飛行機が台湾経由で、一時間半ほど台北に降り立つことに。

「ここでもいいや」とそのまま入国して、そのまま住み着いちゃった。

 サッパリ捨てると、次の世界がどんどん開けてきました。