加藤一二三さんの引退についてのお話を読んで、サッカーのカズさんもそうかもしれませんが、本当に好きで、ずっと続けていたいというのは、すごいなぁと思いました。
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二〇一七年六月に私は、プロ棋士として現役を引退した。七七歳だった。どうして引退したのかといえば、仕組みのうえで仕方がないことだった。
最晩年の私はC級2組に在籍していた。
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・・・C級2組では、降級点を三回とると、順位戦に参加できないフリークラスに降級することになる。このフリークラスには定年があるため私は在籍できず、自動的に引退が決まったのだ。
かたちのうえでは他の棋士の結果待ちとなったが、負けたら事実上、引退が決まることになる対局の前には二週間、ホテルに泊まり込んで研究した。以前には一日か二日、研究することはあったけれども、二週間というのは、はじめてだった。
そこまでやって負けたのだから、自分の中では落ち着いて結果を受け入れられた。
引退が決定したあと、最高齢勝利記録となる現役最後の勝利ができたのはよかった。
引退したときには、規定さえなければまだまだ現役を続けたい気持ちもあったが、いまとなっては、いいときに現役を退くことができたと思っている。
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なにせ、いまはもう八〇歳だ。自分では疲れ知らずのつもりでいても、朝から晩まで頭を休められない真剣勝負を続けていれば、健康上の問題が発生していてもおかしくなかった。
現に、引退した四か月後、みぞおちに違和感があったことから病院に行くと、胆石性急性胆嚢炎だとわかり、手術を受けた。その際、・・・他には問題がない「健康体」とのお墨付きをもらうことはできた。・・・
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私はカトリック信者なので、このタイミングで引退したことは「主の御計らい」だったとも思っている。
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実際のところ、現役を引退してからは、それ以前より仕事が増えている。テレビの出演、本の出版、講演のほか、コマーシャルやドラマにも出演させてもらった。
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最近では、声楽家で将棋ファンの錦織健さんとNHKのラジオで『ひふみん&錦織健の対局クラシック』という番組をやらせてもらった。最初の放送では錦織さんと「オー・ソレ・ミオ」の二重唱を披露した。・・・
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こうしてさまざまなことに挑戦できているのだから私は幸せである。
いまの将棋界も私にエネルギーを与えてくれているのはもちろんだ。これから誰が飛び出してきて、誰が抜け出していくのか、楽しみでならない。