軸のあるしなやかさ

道ひらく、海わたる~大谷翔平の素顔~ (扶桑社文庫)

 子どもの頃から、しっかり置かれた状況をみて、しかも我を張ることがない・・・かしこい方だなぁと感じました。

 

P89

「父親は中学まではずっとコーチや監督だったので、グラウンドで接していることのほうが多かったですね。ただ、監督やコーチはチーム全体を見ないといけないですし、息子だからといって特別扱いするわけにもいかない。だから僕も父親という観点ではあまり見ていなかったですね」

 ・・・

「僕が監督だったとしてもそうだと思いますが、同じぐらいの子が自分の息子と同じ実力だったら、息子ではない違う子を試合で使わないといけないと思うんです。それは当たり前のことというか。だから、息子である自分が試合に出るためには圧倒的な実力がなければいけない。チームのみんなに納得してもらえる実力がなければいけない。まだ小さかったですけど、それは僕にもわかりました。だから、ちゃんとやらなきゃいけないという思いはずっと持ち続けていました」

 

P141

 ・・・佐々木監督には、彼の高校時代で忘れられない試合がある。

大谷翔平を一言で表すシーンと言えば、三年春の県大会でのバッティングです。相手チームの大東高校は、大谷が打席に立ったときに長打を警戒して三塁手が外野へ回って外野四人シフトを敷きました。その状況でも大谷は大振りすることなく、まるでトスバッティングのように、がら空きのサード方向へ打ちました。我を出して自分のバッティングをするのではなく『(サードのスペースが)空いているならそこに打てばいいんでしょ』というようなバッティングでヒット(記録はショート内野安打)を打ちました。自分のパフォーマンスを見せたいと思っている選手ならば、四人シフトの外野の頭上を越してやろうと思うはず。試合展開も点差が広がっていたので、ある意味では思い切り打ちにいっても良い場面でした。でも、私が指示を出したわけでもないのに、彼は広い視野を持って、ムキになることがなかった。その姿こそが、大谷翔平だと思います。大谷が持つ、いろんな意味での『柔らかさ』であったり『しなやかさ』、または『チームの勝利のために』という姿勢。それらすべてを、あの打席は表現していたと思います」