ゴリラの感性

僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう (文春新書)

 こちらは山極さんとゴリラの話で、ゴリラとチンパンジーの違いなども、とても興味深かったです。

 

P180

永田 ・・・山極さん、そもそもの話で恐縮ですが、・・・ゴリラとの間に友情は感じられるものでしょうか。

 

山極 もちろんです。・・・人間はベタベタしてしつこいところがありますが、自然はもっとあっさりしている。好きな相手がいても、しがみつかない。こだわらないんです。何かあったら別れちゃうし、別れている間はすっかり忘れています。でも、再び会うと「おおっ」という感じになる。そのあっさり加減が、私はいいなと思っているわけです。・・・

 ・・・

永田 ・・・ゴリラに嫌な思い出というのもあるんでしょうか。

 

山極 そういう場面を僕は見たことがありませんが、動物園にいるゴリラは、前にいじめていた人間を覚えているそうですよ。・・・手話を覚えたココというメスゴリラは、かつていたずらをした男性を「ダーティ」という手話で語っていたそうです。・・・

 

永田 そういえば手話で人間をからかったゴリラも、ココでしたね。

 

山極「からかった」というのとちょっと違うんですが、同じココです。

 

永田 白いハンカチを見せているのに、ココは「赤い」と言い張る。なぜかと思ったら、そのハンカチの端に赤い糸がついていたという。

 

山極 ココは質問の意図はわかっていたけれど、まともに答えなかった。それがゴリラ的な感性なんですよ。

 

永田 すごいですねえ。

 

山極 意地っ張りで意地悪(笑)。それで僕は気づいたんですが、相手の言うとおりにするのは、相手に従うということですね。相手の下に立たないと、相手の言うとおりにはできません。そういう感性がゴリラにはたまらないんです。そんなこと、できない。だから、ゴリラに何かを教えることは難しい。

 

永田 それは、相手をからかっているという感じではないんですね。

 

山極 ええ。もし、相手が自分の言うことを聞かせようとしたら、ゴリラは逆に、自分が上に立とうとする。相手がやったことと違うことをして、はぐらかして、自分から仕掛けていくのがゴリラの好きなやりかたですね。・・・チンパンジーは相手の気持ちを乱すことが大嫌いなので、相手に喜んでもらおうと、一生懸命、相手に合わせようとする。だから何かを教えやすい。ゴリラ的な相手に従いたくない感性とは違うんですね。・・・彼らにとっては、メンツが大事なんですよ。