どんな年のとり方をするべきか、日野原さんと多湖さんが語っている本の中に、印象的な話がありました。
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十年ほど前に私が監修した『あなたの周りのほのぼのほろり 思わずほほえむいい話』という題名の本で取り上げたあるエピソードがあります。・・・
・・・清水國明さんのお話です。
フジテレビ系で早朝に放映している『テレビ寺子屋』という番組で、清水さんは彼のおじいさんの臨終の際に、まだ幼かった清水さんの娘さんが見せた思わぬ言動について話していました。
おじいさんが危篤という知らせを受けて、清水さんは仕事をキャンセルし、取る物も取り敢えず、家族をともなって駆けつけたそうです。清水さん一家だけではなく、遠方からも親族が続々と集まってきました。
危篤の知らせで集まった人たちはおそらく、お葬式になることを見越してその支度をするとともに、それぞれ日程の見当をつけ、仕事の段取りを手配して駆けつけていたと思います。実際に駆けつけてみると、すでにおじいさんはいつ臨終が訪れてもおかしくないような状態だったので、親族の多くは、予定どおり、お葬式のことなどに思いを巡らせていたかもしれません。
ところが、三日たっても、おじいさんの生命力は強く、・・・集まった人たちにとっては、「想定外」のことだったと思います。特に、仕事のことを考えると落ち着いていられなくなってきます。・・・
・・・大人たちは、気持ちをそのまま表に出すことはできませんが、清水さんのお子さんはついにしびれを切らし、おじいさんの寝ている部屋に来て、
「おじいちゃん、まだ?」
と言ってしまったのです。・・・
このときも、良識ある大人たちは一瞬、子どもの問いかけに共鳴している自分たちの本音を封印して、子どもをたしなめる雰囲気になりました。
そのときです。清水さんのお子さんは、次のように言葉を継いだのです。
「おじいちゃん、まだ?まだよくならないの?」
十年前に発行されたこの本の中で、私は、「これからも幾度となくこの子の言葉を思い出すでしょう」と書いていますが、折にふれて、このエピソードが脳裏に浮かびます。