川村元気さんがいろんな方にインタビューした「仕事。」と「理系に学ぶ」を読んで、面白かったので「世界から猫が消えたなら」も(今頃ですが)読みました。
こちらは「仕事。」の中の、横尾忠則さんの発言。印象に残りました。
P329
川村 グラフィックデザイナーから画家に転向されたときは、自ら逃げ場をなくして、今までの自分が崩れざるを得ないやり方を選ばれたんでしょうか?
横尾 45歳のときでしたけど、そういうのは計算してできるものじゃないですね。それまでグラフィックを25年くらいやっていて、先を考えたときに、少なくとも過去の実績の上にあぐらをかいた生き方しかないなという感覚はありましたけど、魔が差したというのかな。
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MoMAでピカソを観ていたとき、ものすごく混んでいてなかなか動けなくて、目の前にある作品を飽きるぐらい観ていたら、ある瞬間「絵を描こう、画家になろう」と思った。非常に衝動的なものでした。人生の啓示ですね。
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ピカソのせいですよ。僕が画家になったことも、もしも絵で失敗したとしても、全部ピカソの責任。そのくらい無責任に考えとかなきゃ決断できませんね。
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絵画には人生を変える力がありますよね。シュルレアリストでイヴ・タンギーって人がいるんだけど、あるときバスに乗っていて停留所で止まったときに、目の前にギャラリーがあって、そのウィンドウに見たことのない絵があった。それを見たいがためにバスを飛び降りたら、その絵がジョルジョ・デ・キリコのものだった。それで彼は画家になるんですよ。
川村 魔が差したんだ…。
横尾 でも、たいてい自分の中に変化が起こるときというのは、状況が変わったときですよね。だから、自分を変えたいなら、環境を変えればいい。僕は人生を変えたいとか、グラフィックをそろそろやめたいとか絵を描きたいとか考えてもいなかったけど、状況がそうさせたということです。
川村 啓示に従うほうが、考えて選ぶ道より正解なのかもしれませんが、何も約束されていない方向に舵を切り替えるのは、やっぱり僕は怖いです。
横尾 考える頭をもち合せている論理的な人は順序立てて物事を考えられるけど、僕はそういう頭をもち合せていないというのも幸いしたんじゃないかな(笑)。