傷つかない方法

神はテーブルクロス (幻冬舎文庫)

「受け取らない」というのは、とても大事なテクニックだと思います。

P185
 誰にでも人に何かを言われて傷ついた経験はあるだろう。
 しかし、そんなとき、傷つかない方法がある。
 それは「受け取らない」という方法だ。
 これは何かというと、人が自分に向かって口にする言葉すべてに反応しないということである。
 例えば、ある友人が仕事場の仲間にひどいことを言われて落ち込んでいたときがあった。
「そいつは、みんなの前で俺のことを使い物にならないとか言うんです」
「なんでそれを受け取ったりするの。受け取らなければいいんだよ」
「どういうこと」
「たしか君はエンヤが好きでビョークが嫌いだったと言ってたけど、エンヤがその言葉を聞けば嬉しいけれどもビョークが聞いたらどうだろう」
「あんまり良い気分はしないでしょうね。しかし、ビョークは俺が自分のことを嫌いだと知ってもあまり気にしないと思います」
「なんで」
「そりゃ、彼女は有名人ですから、好きだ、嫌いだはさんざん聞いているはずだし、それを意識しすぎていたら彼女は仕事になりません。なんせ何万人、何十万人のファンがいて彼女の噂話はいたるところで繰りひろげられている。一つ一つ気にしている暇はないでしょう」
「今、自分で答えを言ったよ」
ガチョーン
 人それぞれ、見ている世界が違うということである。僕もこういう仕事をしているために、沢山の人達に好きだ、嫌いだと言われていると思う。初めはネットのゴシップなどに反応して、自ら書き込んで反論したこともあった。
 ・・・
「須藤さんがおばあちゃんを五人くらい担いで巣鴨の横断歩道を渡っているのを見ました。心も体も相当強いです」
 絶大なる効果を期待したが、僕の書き込みに対する反応は皆無であった。
 そこで気づいたのである。一〇〇人いて一〇〇人に好かれようとしてもムリである、と。
 みんながみんな自分の言っていることが正しいと主張するが、映画ひとつにしても、感想はそれぞれ違うのである。・・・それはその人の主観的意識でしかない。・・・それをすべて受け取らないようにすればいいのである。気づきがこのレベルに達すると「受け取らない」のは容易になり、人が口にする言葉に対する価値判断で無駄な時間とエネルギーを費やすこともなくなる。