フィジーの里親制度

世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論

 これもまた、びっくりなお話でした。

P98
 フィジー人は問題に直面した時、国からの援助に頼るのではなく、自分たちのコミュニティ内で解決してしまいます。その代表的な例が里親制度です。
 貧しくて子育てが難しい家庭の子どもが、貧困レベルが若干マシな家庭に里子として預けられているのをよく聞きます。里子を預かる期間は、預ける側の貧しさが「若干マシなレベル」になるまでです。
 近所のマッサージ屋で働いている陽気すぎるおばちゃんも里親をしています。マッサージをしてもらいながら話を聞きました。
「おばちゃんのところは、今、何人で暮らしているんですか?」「旦那と息子1人、娘4人、里子1人やから、私入れて8人やな」「あっ!おばちゃんのところも里親なんですね!なんで里親になったんですか?」「8年前、息子が近所のパン屋で働いててん。その時、パン屋の外の道端でインド人の男の子が泣いてたんやって。まあ、どこの家庭にでもある夫婦問題でな。ウチの息子がかわいそうに思ったから、ウチにその子を連れてきてん」「へー。それから?」「その男の子のお母さんとこに行ったんよ。『助けが必要やったらいつでも言うてなー』って。ほんなら『里子として預かってくれたら助かります』って言われたんよ」。
 驚きの展開ですが、どうやらこれがフィジーの常識のようです。
「いきなりですね。それでどうしたんですか?」「その日から家族の一員になったで」「即決なんですね…。」・・・「里子はインド人だったんですよね?特に問題はなかったんですか?」「困ってる人を助けるのに、人種とか関係ないやん。それに家族の中が多民族化してるほうが楽しいやん。子どもの教育にもエエしな」。 
 おばちゃんから名言が飛び出しました。・・・
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 別の女性からはこういう話を聞きました。公園のベンチで休憩していたら話しかけてきてくれた、関取くらい大きな女性の話です。
 彼女は子どもが欲しかったのにずっとできなかったそうです。そんな時、近所に住む女性が5人目の子どもをお腹に授かりました。彼女はその妊婦さんに対して、こう言いました。
「自分のとこ、5人目やろ。ウチとこ1人もおらへんから、その子が産まれたらちょうだい」。その妊婦さんは「しゃーないなー。ええよ。ちゃんと育ててや」と答えたそうです。
 即決、だったそうです。・・・それが良いのか悪いのかはさておき。
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 フィジー人には「困難な状況になっても、だれかが助けてくれる」という確信があります。だから「なんとかなる」とつねに楽観的でいることができます。逆に日本人は「自分でなんとかするしかない」という意識が強く、切迫感や孤独感が漂っています。
「自立」することは大切です。しかし、それは「孤立」とは違います。生真面目すぎる日本人は、もっと人に甘えることを覚えたほうがいいのです。「自己責任」という言葉を使う機会を少しでも減らせれば、人生はとても楽になるでしょう。