記憶力

一個人主義

このお二人のお話を読んで、記憶力ってそういう…とびっくりしました。

まずムツゴロウさんのお話。
P276
 僕は人並み外れた記憶力を持っていることが自慢だったんです。ノートを取ったのは、小学校3年くらいまで。あとはノートを持たなかった。
 よく怒られましたよ。大学でも主任教授に叱られたが、けっしてノートはとらなかった。そりゃあ忘れるものをあるだろうが、覚えてしまうほうがプラスになると思った。
 ところがその記憶力が60歳くらいを境にバタッと一頓挫した。この私が取材ノートを買ったんですよ。記憶力が全然ダメになって、ああオレも終わりかと思った。
 ちょうどそのころ、ポルトガル語の勉強を始めたんです。そうしたら記憶力が戻ってきた。
 これは偉大なことです。だから私は、50過ぎの人には新しい語学をやりなさいと言うんだ。
 ・・・ドイツ語を勉強したときは、半年でゲーテとかシラーを読んでいたんです。ところが今回は、日常会話の単語を100回唱えても覚えられない。中学校の劣等生の記憶力なんだ。
 そこで、部屋にポルトガル語で書かれた本をずらっと並べる。まず子供の童話から読む。机に座ったときに読み、便所、トイレにも置く、風呂でも読む。そうしたら、1年くらいしてポカッと目の前が開いた。
「あっ、オレ、辞書なしで新聞読めるようになってる!」
 違う国の言語はたくさんやったが、ひとつできるようになるたびに、ああ世界ってこんなに豊かなんだなと、目の前の畑に鍬入れているような感じがする。

こちらは渡部昇一さん。
P301
 50代の終わりごろから、ラテン語の暗記に本格的に取り組んでいます。鞄の中にはいつも名文句ラテン語の辞典のコピーが入っていて、暇を見つけてはこれを覚えている。自分自身がラテン語に興味があるからやっているんですが、記憶力向上のためでもあります。・・・
 ・・・ラテン語の暗記を始めてから気がついたのは、人間の記憶力は歳とともに衰えることはない、むしろ鍛えれば強くなる、ということ。ある時、菅原道真の「秋思の詩」という七言律詩を読んでいて、本を書棚に戻してからふとそらんじてみると、すらすらと暗唱できた。紙に書いて、本と照らし合わせてみると9割がた合っている。30代、40代にかけて詩吟をやっていたころには覚えようとしても覚えられなかったこの律詩が、ものの10分ほどで暗記できてしまった。どうやら、ラテン語を暗記することによって記憶力そのものが向上しているようで、これには我ながら驚きましたね。