人生っておもしろい

一個人主義

倉本聰さんのインタビューに出てきたエピソードです。
こんな人生もあるんだな〜と。。。

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 こんなエピソードがあります。僕がニューヨークで知り合った無名の老俳優なんですが、今76歳だったかな。彼は代理店の会長をやっていたんです。順調なサラリーマン生活を送っていた。ところが52歳のとき、ブロードウェイでアーサー・ミラーの『セールスマンの死』という芝居を見て、主人公のウィリー・ローマンが頭から離れなくなっちゃったんです。
 で、どうしてもその役を演じてみたいと言って、代理店を売ってしまった。それで得たお金で俳優学校の初心者クラスに入り、こつこつトレーニングを積み重ねて、62歳くらいでやっと小さな役がつくようになった。僕に分厚いアルバムを見せながら、「こういう役をやった」と説明してくれるんですが、どれも端役なんです。でも、最後にニュージャージーにある小さな古ぼけた劇場の写真を1枚取り出し、僕の手をギューッと握りしめて、目に涙をためて、こう言ったんです。「オレはこの秋、この劇場でウィリー・ローマンをやれることになったんだ!」と。