なんか読んだことあるような・・・いやないか?と思いつつ読み進め、半分くらいの所まできて、あ、やっぱり一度読んでたと気づきました(笑)。
P10
―生きることは苦しい。だからこれ以上の悲しみや苦しみを描き出すことはしない。―
ばななさんはこの対談集の文庫版あとがきでそう書いている。
わたしももうじき八十になるという年齢に達して、ばななさんと同じ考えや心構えを持つようになった。おそらく、あるときに突然、幸福や不幸というものへの感じ方が大きく変わったのだと思う。・・・
P25
宮本 ぼくは京都の、九十歳近い京焼の名門の陶工と知り合いですが、ご本人は芸術家という意識はあまりなくて、子どものときから何回ろくろを回してきたかがものをいう「職人」であるとの意識のほうが強いらしいんです。たとえば、どこかの会社が創立百周年を記念したお茶碗を、三千個注文してくるとします。実際にそんな工房をやっているんですよ。当然、みんな同じ形にしなければならないわけですが、足で回すろくろに、ふっと片手にとった粘土を置き、足で回転数とスピードを調整するだけで、ろくに粘土のほうを見ていなくても、寸分違わぬものが一日に何百とできていく。それを糸ですっととって、横に置くでしょ。するとお弟子さんが運んでいくわけ。ぴたーっと同じものが並ぶのは、それはすごいよ。
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・・・ところがそうした作業が一段落してちょっと暇ができると、残った土を寄せ集めて、スッとぐい飲みとかおちょこを作ったりする。完全に手すさびとしてね。自分も楽しんで、形に遊びを加えたりして。本来ならもっと薄くしなきゃいけないのを、ちょっと厚目にやってみたりとか、ちょっとした絵を描いてみたりとかね。こうしてできたものが、また素晴らしいんです。
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・・・ぼくは、どれぐらい長生きできるかわからないけど、この境地で短編が書けるようになりたいと夢見ています。楽しいもの、幸福なもの、心根のいい人の出てくるものを、一輪の花のようにすっと差し出す。ちゃっちゃっと、手すさびで遊びながら書いたものが、元気のない人を勇気づけたりできれば幸せですね。・・・
P62
人はみんな、道はたくさんあって、自分で選ぶことができると思っている。選ぶ瞬間を夢見ている、と言ったほうが近いのかもしれない。私も、そうだった。しかし今、知った。はっきりと言葉にして知ったのだ。決して運命論的な意味ではなくて、道はいつも決まっている。毎日の呼吸が、まなざしが、くりかえす日々が自然と決めてしまうのだ。 ―吉本ばなな『キッチン』
P93
宮本 所詮、夫婦は他人なんです。だからこそ相手を尊重する。とはいえ、ぼくがそうするようになったのも、五十を過ぎてからですが。
吉本 きっかけがあったのですか?なにか危機的なことが起きたとか?
宮本 いや、自然にそうなっていったね。俺のために女房はいろいろ尽くしてくれたなと思ううちに、お茶を淹れてくれても、たばこを渡してくれてもありがとうと。一日百回ぐらい言ってます(笑)。
吉本 距離感を持って接するというと冷酷に聞こえるかもしれませんが、同じことだと思います。相手を尊重したい気持ちの表れですよね。うちの場合、夫とは籍も入っていないので、明日別れようと思えば本当にさよならできてしまう。あなたがいてくれてありがたいという実感は、大事にしたいです。
宮本 プライベートなことなので答えたくなければいいですが、籍はあえて入れないのですか?
吉本 そうです。私は父の仕事の影響で、実家でいろいろ大変な思いをしてきました。見知らぬ人が家の外にいて、突然入ってきたり、電話がかかってきたり。つねに危険にさらされている感覚がありました。自分もものを書くようになり、自分とか子どもとか一緒に住んでいる人までは、まあ、その状況にあってもしようがないねと言えるけど、相手の親戚や知り合いにまで、それを及ばせるわけにはいかないなと思ったんです。このような仕事の場合、あまり大勢を巻き込まないほうがいいなと。それで結婚という気が起きなかったのです。いまもないです。・・・
P103
宮本 ぼくは父親やその父親の兄弟が、糖尿病の系統なんです。・・・ぼくも四十三歳のときに、風邪をひいて検査をしたはずが、医者の友達に「おまえ、糖尿やで」と言われてしまいました。境界型の糖尿病です。・・・
・・・六年ほど前になるでしょうか、ある人に「糖質制限食」を紹介されたんです。・・・
・・・
炭水化物を摂らないと、必然的にたんぱく質が増える。それが腎臓に影響するのではないかと懸念されているわけです。そこでぼくは、主治医の観察のもとに始めました。やってみてすぐにわかるのは、人間、炭水化物中毒にかかっているということですよ。
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・・・炭水化物中毒から解脱しているのだと自分を説得して、なんとか我慢して十日ほど経ったとき、主治医から電話がかかってきたんです。そろそろ音を上げているころだろうと。
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続けていると言ったらびっくりして、いちおう採血に来たんです。すると彼もびっくりするぐらい、数値が良くなった。・・・
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・・・炭水化物中毒からいちど抜け出したら、そうつらいものでもないですよ。もう丸六年。全部の数値が全く正常です。それとなにより、スタミナがついたのもよかった。
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小説を何時間でも書きつづけられるんです。集中力の持続時間が驚くほど延びました。
吉本 すてき。いくらでも書いてください。しかしいまのお話を伺うと、人間は血糖値に支配されているんですね。やっぱり。
宮本 結局のところ、たとえば牛丼やロールケーキをたくさん食べたら、人間の体の中には嵐が起こるんです。一気に血糖値が上がるわけです。しかし体はつねに恒常性を保とうとするので、血糖値を下げるためにインスリンが出る。それが出にくくなったときに、糖尿病になるわけです。しかし嵐が起こらなければ、最小限のインスリンしか出す必要がなく、波が凪いでいる。すると精神的な情緒の波もものすごく少なくなるんですよ。それを自覚したのが、糖質制限を始めて、二、三週間目ぐらいです。
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・・・体重も月に一キロずつ落ちていって、学生のときの体重に戻ったら、そこからもう増えも減りもしない。その人の適正体重になったということかも。
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吉本 私はいま、体がむくみやすいとか腰が痛いとかいうような外側のことは、ロルフィングだとか、はり、マッサージなどに行って解決するようにしています。
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・・・はりの先生と漢方の先生が、ご夫婦でやっているクリニックに通ったことで、彼らの優秀な見立てによって、これまでの自分の健康法の間違いが正されて、ずいぶん改善されてよくなりました。
宮本 たとえばどういう間違った健康法?
吉本 水を摂りすぎることで、体温が下がっているとか。・・・はりの先生が言うには、とにかく日本は高温で多湿な時期が長いと。多湿だと摂取した水分が外に排出されないので、そのまま体内に残ってしまう。水を飲めというのは、乾いている土地の健康法だというんです。残った水は腎臓に負担をかけてしまうと、その先生が。それは私にとってすごく合う健康法なので、水を少なめに摂ることと、体を温めるようにはしています。・・・
