宇宙一チャラい仕事論

ワーク・イズ・ライフ 宇宙一チャラい仕事論

 「アロハで田植え、はじめました」がおもしろかったので、こちらも読んでみました。

 内容がかなり熱いような?と思ったら「文章は、汗で書く」とあって、あぁそれで・・・と思いました(笑)。

 

P8

 どうしたら、ナイスな感情を保ったまま、一週間を過ごせるか。あるいは、一日を、たった一時間でもいい、このご機嫌を続けていくことができるか。

 先にも書いたように、わたしは百姓で猟師で、作家です。ここ十年くらいは、自分の肉体で分かったことしか書かないと決めている。文章は、汗で書く。

 百姓も猟師も激しい肉体労働で、早朝から動き始める。米百姓の仕事は朝が早いんです。なにせ最近の酷暑。日が高くなって田んぼにいるのはもはや自殺行為です。猟師も朝が早い。「場所取り命」の仕事で、ほかの猟師に先駆けて、獲物のいる猟場にいなければお話にならない。

 でも、作家もそれに劣らず時間のかかる、体を酷使する仕事です。春夏は朝の四時起きで書き始めるし、猟期の秋冬は、午前二時起きです。

 それが苦役なのかというとまったくそんなことはなく、だれに頼まれたのでもなく、カネのためでもなく、喜々として、こうして文章を書いている。だから、幸せな人間なんでしょうね。

 そんなふうに過ごしてきて、はっきり、手でつかみ取ったことがあるんです。

 ナイスな気分でいるために、つまり幸せになるために、死活的に重要な要素がある。三つある。幸せは、その三要素でできあがっている。

 それが、夜空に浮かぶ三つの星、幸せの青い大三角形です。

 仕事 勉強 遊び

 今夜はその話をします。

 

P55

 アレクサンドル・デュマに『モンテ・クリスト伯』という大著があります。わたしはあの本が大好きなんです。主人公が無実の罪で逮捕され、投獄される。その同じ牢獄にいたおじいさんの話が、とくに印象に残っています。

 この老人はなんでも知っていて、いろんな発明もできる。

「牢獄にいるのに、なぜそんなことが可能なんですか?」と、主人公が老人に聞く。するとこのじいさん、「自由がないからだ」って言うんです。

 自由がないから、ギュッと空気が圧縮される。知恵でも、過去の知識でも、圧縮されるから爆発する、というわけ。

 好きなことさせてくれない。望むポジションにつかせてくれない。そんな泣き言こくな。爆発するのは牢獄にいるときなんだ。

 自由がないからこそ、知恵が働くし、工夫を凝らす。抑圧され、自由を渇望し、その思いがのちに創造力となって爆発する。

 これはつまり、次節以降で書く<勉強>と<遊び>をしろ、ということですね。

 <仕事>の話で、最後にひとつだけつけ加えると、好きなこと一本で食っていける人は、例外中の例外だということです。

 小説家が小説だけで、ミュージシャンだったら音楽一本で生活できる。それは、僥倖だと思ったほうがいい。才能があるのに埋もれている人は、山ほどいます。売れた人には、才能がある。しかし、逆は必ずしも真ならず。才能がある人が、必ず売れるとは限らない。世界は公正にできていません。

 ・・・

 コンビニでバイトしながらライターをしている。作家を目指している。そういう人もたくさんいます。それの、いったいなにが恥ずかしいんですか? 

 むしろ、本物ってそちらだとも思う。コンビニでバイトしてでも、書きたい小説がある。描きたい絵がある。そっちでしょ、本物は。

 ゴッホなんか生前、絵が売れていません。弟がおカネを援助してくれるだけ。でも描く。一生を賭けて、描いた。

 ・・・

「これがなければ生きていけない」と思い詰めるほどにのめりこむ好きなものがあって、おカネや食べ物などある程度の対価が得られるならば、もう言うことないじゃないか。

「音楽ができて、それでrent(家賃)が払えたなら、あんたはもう成功者だ」

 ビリー・ジョエルが言っていたことです。・・・好きなことで家賃が払えたなら成功者だ。レコードを出したいとか、ドーム公演をするスーパースターになりたいとか、意味がないよと。

 

P126

 ・・・野球を始めるときに、アンパイアはなんて言いますか?「プレイ・ボール!」って言うんです。「ワーク・ボール!」なんて言いませんよ。あれはどういうことかというと、「遊べ」と言ってるんです。ボールで遊べっていう宣言なんです。

 ベーブ・ルースだって大谷翔平だって、遊び心がなければあんな偉業はできやしません。・・・

 いまでこそ日本のサッカーもずいぶん変わってきましたが、わたしらが子供のころ、かかとで蹴るパス(ヒールキック)でもしようものなら、「かっこつけるな!」とコーチに怒鳴られたもんです。まだ日本がW杯に出場できなかったころ、あるブラジルのプロ選手がもらしたという感想を、よく覚えているんです。「日本の選手は、サッカーを練習している。わたしたちは、サッカーで遊んでいる。だから、わたしたちには勝てない」。あれは至言だったなあと思います。

 人間は<遊び>だからこそ、クリエイティブになるんです。