いのちの車窓から

いのちの車窓から

星野源さんのエッセイを読みました。
ここに載ってたのは、しょうもな〜という話でしたが(笑)、怒りエピソードを笑えるように話す、っていいルールだなと思いました。

P21
 ・・・ベーシストのハマ・オカモトは、デビューして間もないながら大御所とも張り合う素晴らしい演奏力を持ち、人間的にもしっかりしているのだが、なぜかいつもプンプン怒っている。
 なぜか、と書いたがその怒りはとっても筋が通っていて、理路整然としている。・・・たいてい何かしらの事件が起こっていて「源さんちょっと聞いてください」と怒りのトークショーが始まる。なぜか、とは「なぜか理由なく怒ってる」という意味ではなく、「なぜか、いつも怒るようなことが起こってしまう」という意味だ。自分はその話を聞くのがとても好きだ。
 かくいう己も、そんな怒りトークのあとには大抵「ハマくん聞いてよ実は俺も」とマイ怒りエピソードを2倍の分量でお返しできてしまうほどに、仕事上の理不尽なトラブルには悩まされている。
 そんな二人には暗黙のルールがある。それは「ヘビーな怒りエピソードほど面白く、笑えるように」話すことだ。
 怒りを吐き出す行為というのは、それをぶつける相手の気持ちを大きく揺り動かすほどに負のエネルギーが強い。しかし、黙って自分の中だけに留めておくと、次第に自分の心は不安定になり、体の具合も悪くなっていく。だからなるべく楽しく面白く吐き出すことが必要である。
 間や話の運び方、理不尽な事件に巻き込まれたときの自分のリアクションの再現の方法や表情の作り方で、なるべく相手が楽しく「ひどい!」と笑えるように努める。・・・残念ながら、仕事でのエピソードはここには書けないけれど、プライベートのことなら多少書いてもいいだろう。
 ・・・
「源さん、許せないことがあるんです」
 そう言いつつ、とある写真を見せてくれた。そこには・・・楕円形の菓子パンが写っていて、パッケージにはこう書かれていた。
【ちぎれるバターブレッド】
 それを見せながら、彼は血管がちぎれんばかりに力を込めて言った。
「パンは、元からちぎれます……!」
 私は、首の骨が軋むほどに大きくうなずいた。そこに写っているパン自体は、確かにちぎれやすそうなデニッシュ風だが、商品名のおかしさは変わらない。・・・
「そんなに言うなら、どれだけ良いちぎれなのか、確かめる為にちゃんと買いました」
「どうだった?」
 彼は震えていた。
「めっちゃ普通……」