相互作用

「科学にすがるな!」――宇宙と死をめぐる特別授業

「見るということは、相手から光が来たということです」
素粒子もふつうの世間の生き方と一緒なんだよ」
 とても印象的でした。

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 先生はうなずきながら、両手を前にならえするみたいに出し、
「左右にプラスとマイナスの壁があるとする。そして、まん中にプラスの電気をもった粒子があるとしよう」
と、まん中でこぶしを握った。
「まん中のこいつは、マイナスのほうに引っ張られる。だがいったい、こいつはどっちに行くべきかをどうやって確かめているんだろう?」
 私は黙って先生を見た。
「こいつは、オレはプラスやと知っている。で、ここにポンと置かれてまじまじと考える。でも、じっと考えているだけじゃわかりません。離れた場所に何かを発して、探索を入れないとわからない」
「それが、粒子を行ったり来たりさせるということですか」
「そう。行ってこさせて、あっちはプラスだよと情報をもって帰ってくる。でも壁のプラスは、いつたちまちマイナスに変わるかもしれないから、絶えず探索する必要がある」
「どうやって探索するのですか?」
「見るんです」
 見る?
「見るということは、相手から光が来たということです。つまり光のエネルギーを行き来させて力を及ぼし合っている。これが電気的な力です」
 遠く離れた星と星とのあいだでも、それは起こっているのだろうか。
「重力や電気的な力は、物質と物質がどんなに離れていても届くし、あいだが真空でもちゃんと作用している。力とは、そうしたやりとりそのものです。だから力といういい方は、ふさわしくないね」
「どんないい方だと、よいのですか?」
「ぼくたちは「相互作用」といういい方をする。化学反応も、電磁気的な力で起こっているが、ふつう化学反応を力だとは思わないでしょ。むしろ相互作用という言葉がぴったりする」
 私はまだ浮かない顔をしていたのだろう、先生は念を押すように繰り返す。
「相手とのあいだには何もないんだよ。だから自分の力で周りとコミュニケートしないかぎり、どっちに行っていいかわからない。誰も教えてくれないんだもの。素粒子もふつうの世間の生き方と一緒なんだよ」
 ・・・
 まさか、机とカップのあいだに、人間と地面のあいだに、地球と月のあいだに、常に粒子がやり取りされているなんて。私はさっきからずっと、目の前にある机とカップを眺めていた。まさにいま、この二つのあいだにたくさんの粒が忙しく行き来しているのだろうか?・・・