ほっこりした話

寝たきりだけど社長やってます

心に響く母の言葉、として紹介されていたエピソード、温まりました(^^)

P77
 小さな頃から、母には身の回りの世話をすべてしてもらい、常に付き添って介助してもらっている状況である。
 僕に恩返しできることがあるとすれば、それは自分で稼いでそのお金を家に入れることだと思っていた。そのための最良の選択である就職のチャンスがあるのに、それを自分が納得できないという気持ちの問題で断ってしまっていいのかという葛藤がつきまとっていた。
 本実習を正式に断り、僕は今後のことも決められず、重い気持ちを抱えて過ごしていた。学校にも親にも、そして小さな頃から自分が抱いてきた働きたいという思いに対しても、どこか裏切ってしまったような申し訳ないような気持ちがあった。
 ある日、僕が車椅子で学校の廊下を移動していた時、僕を迎えに来ていた母の姿が目に入った。母は先生と何やら立ち話をしているようだった。
 ・・・
 先生が母にこう言っていた。
「仙務君はいつも頑張っていますね」
 その先生は進路について何も知らない先生だったので、僕は今回の件が頭をよぎり、胸が痛かった。
 僕は自分ではそうは思わないのだが、周囲の大人から期待されやすいことがあり、自分が思った以上の評価をもらうことも多かった。僕自身、それに応えようとして、いつも必死に頑張っていたところがある。
 すると先生に母親はこう答えた。
「うちの子はそこらへんの普通の高校生と一緒ですよ」
 僕は何気なく母が言ったこの言葉で、それまで胸の中に堅いしこりのように残っていたものが溶けたような感覚にとらわれた。これまで、必死に頑張らなきゃと思い続けていたものが、少し柔らかく、暖かくなって、自分の体の中に広がっていくような気がした。
 もうちょっと型にはまらずに、自由にやりたいことをやってみようかな。
 そんなことを思った。