失敗について

宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由

こちらも失敗にまつわるお話です。

P158
ハリー・ポッター』シリーズの著者であるJ.K.ローリングによる、二〇〇八年のハーバード大学の卒業式の祝辞は素晴らしいスピーチだった。全文をインターネットで閲覧できるので、是非読んでみてほしい。"The Fringe Benefits of Failure,and the Importance of Imagination"(失敗の特典と、想像力の重要性)と題したスピーチで、彼女は卒業生に対してこのような挑戦的な言葉を投げかけた。
「……みなさんがハーバード大学を卒業するということは、みなさんがあまり失敗に慣れていないということではないかと思います。みなさんは成功への欲望に駆られるのと同じくらいに、失敗への恐怖に追われているのかもしれません」
 そして彼女は自らの失敗体験を語った。離婚、失業、そして「ホームレスの一歩手前の極限まで貧しい生活」をしたそうだ。失敗のどん底にあって、彼女は「私にとって大事な唯一つのこと」、すなわち小説を書くことに全てのエネルギーを注いだ。そうしてできた作品こそが『ハリー・ポッター』だった。
 彼女は卒業生に向かってこう言った。
「何にも失敗しないためには、死んだように及び腰になって生きるしかありません。しかしそんな人生は、元から失敗です」
 このスピーチを読んで、僕は自らを省みずにはいられなかった。僕はまだ何も大した成功をしていないばかりではなく、大した失敗すらもしていない。いや、失敗はしたくてするものではないし、失敗したからといって成功するものでもない。・・・
 後付けかもしれないが、僕にとって旅とは、人生における経験の不足を幾分かでも補う意味を持っていたのだと思う。僕は旅の中で、小さなトラブルになら数え切れないほど遭ったし、それなりにひどい失敗も二度した。・・・もう二度とそんな経験はごめんだが、かといってバックパック旅行をやめてパッケージ・ツアーに切り替えようとは寸分も思わないし、綺麗な海や川を見たらパンツ一丁で飛び込む悪癖も直す気はさらさらない。僕は旅の中でさまざまなトラブルに遭いながらも、旅を楽しく豊かなものにする自分なりの方法を学んだと思う。その方法を生き方にも応用すれば、きっとこの人生も、若干のトラブルはあるかもしれないにせよ、楽しく豊かなものになるだろうと信じている。