相手の腕を引くのではなく、自分が触れているところを動かす

身体は「わたし」を映す間鏡である

 介護、介助する側が楽なようにということを優先して動くと、相手は動かされる強引さを感じてしまうそうで、こういう方法があるんだ、なるほど~と思いました。

 

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 父が武道の研究を通して、・・・介護など異分野の身体技術を研究する専門家の方々からも関心を持たれるようになる・・・

 そのうちに、・・・介助される役として、父や他の人に抱えあげてもらう経験を重ね・・・あるとき気がついたことがありました。

 自分の動きやすいよう動くことはいいことではあるけれど、介助する人の動きだけに注目して動くようなやり方には、少し足りないところがあるのではないか。介助する相手の状況をもっと取り込んだうえでの動きを検討する必要があるのではないか―。

 ・・・

 ・・・私が介護、介助の動きとしていま大事にしているのは、介助する際に「両者が触れているところ、そこを動かす」という考え方です。

 たとえば、相手の腕を両手で持ってこちらに引こうとした場合、自分の手と空いての腕とが接している面(触れている部分全体)、そこが私のとらえる「両者が触れているところ」です。その「触れているところ」を動かそうとすることが、ポイントです。相手の腕を引く、のではなく、自分の手が相手の腕に触れたところを引く。そうすると、意外なほど楽に、そして、相手にとっても不快さの残らない動きになるのです。

 ・・・両者の接点に注目してそこを動かすようにすれば、両者の動きが一つに協調されるのではないか―そんな考えに至るヒントを、多くの経験が少しずつ私に教えてくれたのです。

 ・・・「相手と触れたところ」を引くだけなら、相手の方の身体も自分が引かれているわけではない、と解釈をして、緊張せずに対応してくれます。そのように注意の範囲を絞ることによって動作の効果が変わってくることは、いろいろな場面で応用できる考え方の一つです。