多様で複雑な

ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話 (文春文庫)

 ここも、上橋菜穂子さんのお話で、印象に残りました。

 

P122

 変わり続ける環境と、変わらねば生き残れない生命。

 ・・・最近、池田清彦著『不思議な生き物 生命38億年の歴史と謎』という本の中の「社会ダーウィニズムの正体」という部分を読んで、ちょっと気分が上向きになりました。

 湖の中にいるミジンコやワムシは、大型で競争に強い種ほど農薬に弱いので、農薬を撒くと、今まで強かった種がだめになり、弱かった種が繁殖し、結果的に生態系の種編成が変わるという、花里孝幸先生が『自然はそんなにヤワじゃない』の中で書いておられた事例を挙げながら、池田先生が、

 

 競争力に資源を使えばストレスから身を守ることが難しくなり、ストレスに強くなれば、競争力は弱くなるというわけだ。つまり、生物はすべてにおいて常に強いということはないのである。 (一四九頁)

 

 と、書いておられて、なるほどなぁ、と思ったのです。

 もともとダーウィン自身は「弱肉強食」などとは言ってはいないこと、社会ダーウィニズムの恐ろしさは、先住民研究をしてきたので、身に染みてよくわかっているのですが、池田先生のこの本は、生物の世界においても、生物の在り方は、もっと複雑なものであることを教えてくれました。

 適者のみが生存に有利であれば、その種ばかりが大繁殖し続けるはずですが、それでは種の多様性は生まれない。種の多様性が見せてくれるのは、競争したり、しなかったり、殺し合ったり共存したりして生きている、生命の、一筋縄ではいかない在り方なのでしょう。