なんの支障もない

言えないコトバ (集英社文庫)

 なんとなくのイメージで使ってるコトバってあるな~、個人的にはなんの支障もないコトバってあるな~と、ちょっとおもしろかったです。

 

P110

 友達数人とご飯を食べているときに、なんだかわからないけれど「ペントハウス」の話題になった。

 わたしはその話題に乗りながらも、ちょっと不安になっていたのだった。

 ペントハウスって、なんだっけ?

 そう思っていたら、その中のひとりが、

「っていうか、ペントハウスってなに?」

 と言ったので、ああ、よかった、これで正解がわかると思っていたところ、

「さぁ、豪邸ってことなんじゃないの?」

「マンションの最上階でしょ?」

 などと、みんなあやふやな感じなのだった(おいおい)。コトバって、イメージだけでなんとかなっているんだなぁと思う瞬間である。

 ちなみに、家に帰ってカタカナ語辞典でペントハウスを調べてみたら、「アパートやマンションの最上階にあるベランダ付きの高級住宅」とあった。みんなの意見を合わせると、だいたい正解だ。

 さて、そんなペントハウスに住むような人々が持っているであろう、もうひとつのおうち。

「別荘」である。今は、「セカンドハウス」と言うみたいだ。

 そしてわたしは思うのだった。

 どっちでもいいです……と。

 だってだって、別荘にしろ、セカンドハウスにしろ、わたしが手にすることは一生ないのですから~。

 実家は借家。東京の今の住まいも、築40年のすすけた賃貸マンション。ファーストハウスすら夢物語なのだから、セカンドハウスどころじゃないのは確かである。

 書いていて、今、思い出した。

 そういえば、ずーっと昔、実家に、

「床下収納をお考えじゃないですか?」

 というセールスの電話があって、家族で大笑いしたことがある。実家は団地の3階なのである。床下収納をしたら、下の階の人、絶対に怒りますから。

 別荘というコトバを使う機会もないまま、時代はセカンドハウスへ。この先、セカンドハウスがどんなコトバに変化しようと、わたしにはなんの支障もないのだった。