きのうご紹介した本に、丸山ゴンザレスさんも載っていて、著書を読んだことがなかったので読んでみました。
P22
日本では麻薬の使用に対して世間から厳しい目が向けられている。マリファナも麻薬の一種ではあるのだが、海外では、他の麻薬に比べれば比較的寛容に受け止められていることは、ご存じの方も多いはずだ。・・・
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現在のところマリファナの個人使用については罰金刑のみで、実質的に野放し状態となっている。その一方で人々はなぜかタバコについては厳しい立場をとる。
スラムではない場所だったが、私がタバコに火をつけて吸っていたときのことだ。
「ちょっと煙いぞ」
「すいません」
ジャマイカ人にたしなめられることもしばしば。中にはマリファナを咥えながら言ってくるヤツもいる。彼らの感覚では、タバコよりもマリファナのほうがよほど身体にいいという認識なのだ。正直、納得いかないが、これがジャマイカなのだと思って飲み込むことにした。
「ジャマイカ人はドラッグはやらない」
取材をしていると、ときどき耳にした。ここでいうドラッグとは、マリファナ以外のハード・ドラッグのことである。・・・ハード・ドラッグをやるヤツは嫌われて、村八分にされてしまうのだという。
この国では、コミュティを追い出される2種類の人間がいるという。それは、ケミカルをやるヤツと母親に手を上げるヤツだ。ヤク中と親不孝者はダメということなのだが、どうもこんがらがってくる。
独特のルールで動くジャマイカ。彼らの行動は、私に新鮮な驚きを与えてくれた。その一方で、コミュティによって支えられているという濃密な人間関係の一端を垣間見ることができた。それは、この国に生まれて生きる人々にとっては欠かすことのできない関係性であると同時に、彼らを縛るものでもあるのだろう。
ギャングの抗争が絶えず、マリファナが生活の一部となっている危険地帯。刹那的だが、幸せそうに過ごす人々の表情が印象的だった。
P37
アメリカへのドラッグの流入ルートは、まずメキシコのティファナなどアメリカ南部・西部の国境エリアから密輸され、サンディエゴからロサンゼルスに集められる。・・・ドラッグビジネスを取材するため、ニューヨークのチャイナタウンを訪れた。
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・・・電話で指定された場所はチャイナタウンの奥まった場所にある少し古びれたビル。メインの入り口はオートロックで、部屋の鍵もきちんとしたものだった。出迎えてくれたのは40歳ぐらいの中国系アメリカ人。
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「で、何が聞きたいんだ?」
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「あなたが扱うドラッグってどこから入ってくるんですか?生産地は?」
「いろいろだよ。メキシコのこともあるし、ジャマイカだったり国内産もある。品質をみながら俺がセレクトしている」
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「儲かってます?」
「それほどでもないね」
「アメリカはいまマリファナが合法化されつつあるじゃないですか。そんななかで、こうした裏のルートでマリファナを求める客が来ると思いますか?」
「来るさ」
自信満々に答える男の様子から、強がりでないことはわかる。
「なぜそう思うの?」
「この先、いやもういまだってマリファナはアメリカ人なら誰でも手に入れることができる。だからチャンスなんだよ。みんなが味を知ってるってことは、いいものと悪いものの違いもわかるってことだろ。だから品揃えやサービスがいい業者が選ばれる」
「完全にビジネスマンの発想ですね」
この男が示したのは、ドラッグに限らない商売の基本だ。
「しかも、合法になってしまえば堂々と販売できるんだ。これほど歓迎すべき状態があるか?ドラッグってのはアメルカに入ると金と同じような価値がつくんだ。品質とグラム単位で金額が決まる。いまのところ高値なのは希少性があるからさ。マリファナも、安い高いじゃなくて品質で選ぶ時代が来ると思うね」
P328
砂漠のど真ん中にあるネバダ州ラスベガスでは、洪水対策のため、地下にトンネルが張り巡らされている。豪雨が襲っても地下水は一気にトンネルへ集まり、街の外へ放出される。私たちが足を踏み入れたのもそのトンネルのひとつだ。
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・・・歩き続けること数分、トンネル内は完全な暗闇に包まれ、50メートルも進まないうちに散乱するゴミがライトに照らし出された。主にビール缶などの生活ゴミだが、外から風で飛んで来るようなものだけではない。寝袋や毛布などもたたまれた状態で放置されていたのだ。
この場所まで誰かが来て、生活していたのは明らかだった。先には誰かがいる。男だ。なんと、床に直接敷かれたマットレスの上で布団にくるまって寝ている。昼過ぎだったので、昼寝だろうか。眠りはそれほど深くない……はず。声を掛けてみる。
「すいません。日本から来たジャーナリストです」
「あ⁉」
怒ってはいないが、いきなり起こされたうえに外国人に囲まれ、戸惑っているようだ。まあ、ここがアパートだとして、部屋で寝ているところを侵入者に起こされてインタビューしたいと言われたら、私ならキレるどころのレベルではないだろう。彼の戸惑いを察して「すいません」と再度謝った。
「この街の地下で暮らしている人にインタビューをしています。あなたの話を聞かせてもらえませんか」
「いいけど……何が聞きたいんだよ」
快諾とはいかなかったものの、事情を説明して勘弁してもらうことができた。・・・
男性はヒゲのないサンタを薄汚れさせたような見た目で、歳は50代といったところか。威圧感はない。
「夜勤明けなんだ。ちょっと一服させてくれ」
ヒゲなしサンタことジョンさんはそう言うと、タバコを咥えて火をつけた。・・・
「夜勤っていいますと、お仕事をされているんですか?」
「そうだ。コンビニで働いている」
ホームレスをしながら働く人は珍しくないが、彼の場合はパートタイムでしっかりと働いている。それならば地上である程度はまともな暮らしを送れるのではないだろうか。そんな疑問が私の顔に出ていたのだろう。ジョンさんはニヤつきながら言った。
「地上で暮らすと家賃が高いだろ。俺は寝に帰ってくるだけだから、これで十分なんだよ」
「きちんと計算されているんですね。でも、そんなに生活設計ができるあなたが、なぜこんな暮らしをしているんですか?」
「前はバーを経営していたんだ。おかげで数字には細かくなった。けっこう流行っていたと思う。それが、人生はわからないよ。離婚でかみさんに持って行かれたんだ。ちょうど娘も大学に行く歳だったし、もうなんか全部が嫌になって、ここに来たんだ」
ジョンさんは、深くタバコを吸いながら過去を回想しているようだった。
「それまでの俺は真面目だった。酒もタバコもギャンブルも女もやらなかった。それが離婚によって、人生で築き上げてきたすべてが崩れたんだ。バカらしいだろ。だから、半分になった財産をこの街で全部使ってやろうと思ったんだ。使い終わったら死んでやろうかぐらいに思ってさ」
アメリカでは離婚の際に夫婦の財産を折半するため、事業をたたんで現金化することがある。ジョンさんの場合もそうだったようだ。
「でもよ、ここに来てギャンブルやって遊びまくるうちに人生が楽しくなってきた。だから、いまは自分の楽しみを優先させる生活をしているのさ。家賃なんか払うよりも、他のことに金を回しているわけだ」
無計画なようできちんとした生活設計をしているジョンさんが、だんだんヒゲなしサンタから、ヒゲなし社長に見えてきた。・・・
どうしても気になっていたことを聞いてみた。
「ところで、入り口のウンコ。あれはなんですか?」
「隣の穴のヤツがしているのか……俺はあっちに行かないから詳しくはわからないんだ」
「交流はないんですか?」
「前は挨拶をしていたが、俺も夜勤が多いからな」
「ウンコの奇行はいつごろからかわかりますか?」
「わからないな。ただ……」
「ただ?」
「半年か1年ぐらい前から叫び声みたいなのが聞こえてくるようになったな」
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「これから先はどうするんですか?最初に欲望を発散したわけじゃないですか」
「実は金を貯めているんだ。もうすぐ車が買える。そうすればここに暮らしながら気が向いたらドライブしたり、どっかに旅に出るのもいいな」
「この暮らしは続けるって……じゃあ、いまの暮らしは楽しめているんですか?」
「当たり前だろ。ときどき、娘に電話するんだが、俺がこんな暮らしをしているなんて想像もしていないだろうな。それでも、俺はこの生活をやめるつもりはないよ」
不思議な男だった。悲愴感は一切感じさせない。むしろ、すべてを失って生まれ変わったかのように、過去と未来を語る彼に圧倒された。ラスベガスのホームレスは、これまでに日本で取材してきたホームレスとは大きく違う。そんな実感を抱くのに十分な取材となった。
