まず笑おう

死にたくなったらこれを読め!

 ちょっと元気過ぎる語り口なので、死にたくなった時にこれを読む元気はないかも(;^_^Aと思いましたが、おもしろいエピソードが色々ありました。

 こちらは、今この時が大事というお話です。

 

P111

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と詠ったのは、『方丈記』の鴨長明さんですわ。その通りに、この世には共通して時間っちゅうもんが流れていて、同じことがずっと続いているなんて一つもありません。

「お金がなくて将来が見えません」なんて言葉をよく聞きますね。お金がないくらいなんですか!

 私たち芸人は、鴨長明さんが書いたことを身にしみて知っています。なんせ、昨年はテレビに引っ張りだこだったヤツが今年は丸っきり出ていない、なんて一発屋と呼ばれる人がゴロゴロいます。なかには一発を打てないまま、業界から去っていく人も数えきれないほどいる世界です。来年、三カ月後、いや二週間後の自分がどうなっているのかも分かりません。生業としては、どんな職業よりも明日が見えないと思いますよ。

 でも、芸人たちは自分自身を嘲笑うことができます。

 ・・・

 ・・・なかには、堂々と貧乏自慢をしてるヤツらもおりますわ。

「おい、俺はもう二日も食べてない!このままじゃ死ぬからなんか奢ってくれ!」

「俺は三日や!お前が奢るべきやろ!腹が減るから水飲んで暮らしていたわ!ガボガボやで!」

「やかましい、お前ら!俺なんて水も止められた!体乾いてきたわ!ミイラになってまうで!」

 そんなことを弾けるような笑顔で語り合っている。その一つひとつが笑いのネタに繋がっていけばええけれどもね、せめて水くらい飲めよ。・・・

 でも、そんな偉そうなことを言えた義理じゃない。私も駆け出しのころ、もっとひどい目に遭ったんです。・・・

 ・・・

 あるとき、何気なくテレビを見ていると、こんな言葉が耳に入ってきました。

「納豆は国民の栄養食!栄養がたっぷりと入った完璧な食べ物です!」

 なるほど!と膝を打った私。納豆は当時の価格で数十円。お金のない私でもたっぷりと食べることができます。早速、私は手元にあるなけなしの小銭を手にしてスーパーで買い込みましたよ。それからというもの、朝ご飯は納豆。昼ご飯も納豆。夜ももちろん納豆と、私自身が発酵し出して糸ひくんちゃうかな、というほどの納豆三昧ですわ。

 そんな食生活を続けてしばらく経った頃、何か体が重くてダルく、頭はボンヤリとし出しました。・・・外に出るのも億劫。・・・そして日がな、何も考えずにただひたすら眠っていたんです。

 無断で休む日が続いた数日後、舞台で私の姿が見えないことを心配した先輩がアパートへと様子を見に来てくれたんです。当時は携帯はおろか、電話すらなかったからね。

 ・・・

 先輩が目にしたのは、布団にくるまり真っ青な顔をした私です。そら驚きますよね。

 ・・・先輩におんぶされて駆け込んだ病院。そこで検査の結果、重大な病が発覚したわけですわ。

 診断結果 栄養失調

 そりゃ納豆しか食べていませんからね!ははは、って笑いごとじゃありませんよ!処置が遅れていたら、ホンマに私は亡くなって発酵していたところです。・・・

 それからというもの、腹が減ってたまらなくなったら、素直に先輩に「お腹がすきました!なんとかしてください!」とお願いしていました。・・・

 今では、栄養失調になったことさえ、すべてが私の生きる糧。栄養足りないのに、糧になってるのが面白いわ。このように芸人は食うや食わずか、明日のことは分からないことを楽しんで生きています。いや、実はみなさんだって、明日のことどころか一秒先のことだって分かりません。もっと今、この時を目一杯楽しむことが必要です。

 いくらお金がなくても、いいじゃないですか。お金持ちの自慢話より貧乏話のほうが圧倒的に面白い。自分を笑う余裕をもつことが、人生を明るくしていくんです。