道ひらく、海わたる

道ひらく、海わたる~大谷翔平の素顔~ (扶桑社文庫)

大谷翔平さんへ、10年間取材し続けたライターさんがまとめた本です。

とても興味深く、こんなに素晴らしい方だったとは・・・と夢中になってしまいました。

 

P38

 ・・・「メジャー挑戦」への思いを、大谷が再び口にしたのは二〇一六年のことである。・・・

 ・・・栗山監督が面談を思い出す。

「翔平は本当に、お金の話を一回もしたことがなかった。彼にとっての価値観はそういうところにはないんですよね。アイツ(翔平)、やっぱり誰もやったことのないことをやりたいんだと思うんです。結果じゃなくて、それをまずやってみる。翔平は、チャレンジしてみることが嬉しくてしょうがないという価値観を持っているんです。だからこそ、(日本ハムの五年間で)これだけ結果が残ったし、みんなが応援するんだと思います。

 僕は翔平に六回確認しました。その最後に『なんで今、アメリカへ行かなければいけないのかを俺に説明してくれ』と僕は訊きました。そのとき翔平は、はじめに二刀流を提案されたときもすごく面白そうだと思ったし、まだまだ伸びしろがあって、まだうまくいっていないこともいっぱいある。だから『行く』ということが大事なんですと言ったんです。成功するとか失敗するとか、僕には関係ないんです。それをやってみることのほうが大事なんです。そう言い切ったので、僕は『ああ、それが大谷翔平だな』と思えたし、その瞬間に僕のなかにあった疑問というか、わだかまりというか、『本当に行っていいのかな?』という思いが消えました。やっぱり(アメリカへ)行かせなきゃいけないんだと感じましたし、本当にメジャーへ行くことを求めているのであれば行くべきだと思いました」

 ・・・

 たとえば、二〇一九年に大谷は25歳を迎える。もしも、その年にメジャー挑戦となれば、契約面での状況は大きく変わる可能性がある。少なくとも現時点でのメジャーの労使協定にある「25歳未満」の契約条件は大谷に適用されることはなく、大型契約でのメジャー挑戦も十分にあり得るのだ。

 それでも、今このタイミングでの挑戦を決めた。野球少年のような「好奇心」に導かれるように海をわたる決断をした。大谷は言う。

「仮にこのタイミングで行かなかったとして、その先にアメリカへ行くかどうかはわからないことですし、今とこれから先のことを比べること自体がわからないこと。僕のなかでは、『今、行きたい』という気持ちがあったので、その思いを行動に移したというだけなんです。また、契約自体がマイナー契約なだけで、プレイできることに変わりはありません。僕にとって肝心なのはそこだけ。頑張れば、数年後は(年俸も)上がりますし、そこは自分次第。日本ハムに入団して1500万円から始まった一年目から、今の金額(推定年俸2億7000万円)になった五年間と、僕のなかでは感覚的にあまり変わらない。アメリカでは年俸は下がりますし、大変なことも増えると思いますけど、『やりたいこと』には変えられないと思っています。

 もしも二年待てば一生安泰ぐらいの金額をもらえる可能性はあるかもしれません。親のこととかを考えれば……。もちろんお金はあったに越したことはないですし、いらないなんて気持ちはないですけど、ただ今の自分に、その金額が見合うかと言えば、僕はあまりピンとこないので、それよりも今やりたいことを優先したい。たまたま優先したいものがあったということなんです」