先頭打者ホームラン

道ひらく、海わたる~大谷翔平の素顔~ (扶桑社文庫)

 こんなマンガでしか見たことがないようなことをやってくれる、夢を見せてくれるところ、素晴らしいです(^^)♪

 

P234

 プロ野球においてピッチャーがクリーンナップを担うこともかなりの衝撃だが、大谷の一番打者での出場はそれ以上にインパクトがあった。起用を本人に伝えたときの大谷の反応を栗山監督は覚えている。

「あの表情は(二〇一七年シーズンの最終戦で)『四番・ピッチャーでいくぞ』と言ったときと同じでしたね。なんていうか……何も返事はしないんですけど、頷きながら、すべてを呑みこむみたいな。『わかりました』ではなく『わかっていますから、監督』『いきますよ、俺』という雰囲気でしたね、あのときの翔平は。その宿題を俺に任せてください、やってやりますからと言っているかのように。僕は、そういうところが欲しくて、いつもその表情を待っていたんですが、あのときは本当に良い顔をしていましたね」

 栗山監督のビッグプランには、さらに驚きが待っていた。それは大谷の第一打席だ。誰もが想像し得なかった弾道が、センター後方やや右寄りのスタンドに吸い込まれる。プレイボールからわずか五秒後に訪れた奇跡にも似た瞬間に、ヤフオクドームは静寂後の歓喜に包まれた。プロ野球史上初となるピッチャーによる初球先頭打者ホームランだった。

「あぁ、これが大谷翔平なんだあ……」

 ベンチの栗山監督はそう思いながら、何かを確かめるかのように悠々とダイヤモンドを走る大谷の姿を見つめた。

「度肝を抜かれるというよりも、これが大谷翔平なんだなって。説明しようがないですし、そう思わせる選手なんだけど、本当にこういう選手がいるんだなって思いましたね」

 22歳を迎える誕生日の二日前。二〇一六年七月三日の〝衝撃〟を、大谷はこう振り返るのだ。

「初球は真っすぐしかないだろうなと思いながら、(ホームランを)狙っていくつもりというか、狙っていました。『一番・ピッチャー』というのは初めてで、『どうしようかなあ……』と思っていたんですけど、試合が始まる前から『真っすぐを思い切り空振りかホームラン、それぐらいの気持ちで行ってきます』と言っていました。そうしたら、まさかのスライダーがきて、たまたまバットに引っかかって飛んでいった。たぶん真っすぐがきていたら、ファールになっていたんじゃないかと思います。

 あのホームラン、本当にたまたまなんですよ。狙ってはいましたけど、たまたま真ん中に抜けてきて、自分が狙っていない球がきて、たまたま振ったら飛んで入ったという感じ。・・・」

 黒いバットがスライダーをとらえた瞬間は「(スタンドに)入るかどうかわからなかった」という、だから、一塁ベースまで全力で走った。スタンドの歓声とともに弾道の着地点を確認できて、やっと走る速度を落とした。少しだけその空気感も味わいながら、直後のピッチングに備えて「なるべく疲れないように」と考えながら、ゆっくりとダイヤモンドを回った。

 大谷は、球場の観衆はもちろん、新たな球史の目撃者すべてに衝撃を与えた一発を「たまたま」と繰り返す。・・・大谷が持つ星があるとするならば、やはりその輝きはとてつもなく大きく、どこまでも眩しい。そう感じさせるホームランであり、改めて大谷が持つエネルギーと可能性の大きさを感じずにはいられなかった。・・・