とにかく楽しい

道ひらく、海わたる~大谷翔平の素顔~ (扶桑社文庫)

 失敗だったとしてもやった方がいい、不安よりも興味が勝つ、これこそこの世に生きる醍醐味かなと思いました。

 

P217

 ピッチャーとバッターの「二刀流」。それは、先人たちの誰もが本腰を入れてやってこなかった。それまで誰もが想像できなかった新たな挑戦だった。・・・

「そこばかりに固執しているわけではないですけど、他人と違うことをやったときに、どういう結果になるのか。そんな自分自身に対する興味が、あの当時は大きかった。今でもそうですけど、どうなるのかという不安よりも興味のほうが勝っていたと思います」

 ・・・

「両方やることは大変だとよく言われますけど、単純に練習を二倍やるわけではありません。・・・みなさんが考えている以上に効率よく練習をしていました」

 ・・・

「両方やることに対して、自分の気持ちがブレることはなかったですね。もともとがあまり周りを気にしない性格というのもあるんですが、どれが正解ということもないですし、たとえ両方をやることが失敗だったとしても、自分にプラスになると思っていました。逆に僕は、いろいろと言われないよりも、言われていたほうがいいと思っていました。言ってもらったほうが僕のなかで『やってやるんだ』という気持ちが強くなるんじゃないかと思っていたところもあったので。あと、もしもこの先、ピッチャーとバッターの二つをやりたいと思う子が出てきたときに、僕の挑戦が一つのモデルになって、たとえ失敗だったとしてもそれを成功につなげてくれればいいという思いもありました」

 大谷は、あくまでも個人的な考えとして「二つをやりたいという気持ちがあれば、やったほうがいい。そういう選手がいてもいいんじゃないかと思う」とも話す。

 ・・・高校時代の恩師である花巻東高校の佐々木洋は、かつて二刀流に挑むプロ一年目の教え子にこう訊ねたことがあったという。

「実際に二刀流をやっていて、周りの声は気にならないのか?」

 大谷は「気になりません」と言い切り、「とにかく楽しいです」と言葉を返したという。佐々木監督が思い起こす。

「周りから見れば非常識なこと、あるいは初めてのことは、いろんなところから叩かれることがありますよね。でも、そんな状況でも、大谷はまるで野球少年のように『楽しい』と言うばかりで。プロ一年目のあたりに二人で話したことを今でもよく覚えています」