迷路の夢や、目の前のことを1つずつ乗り越えていくというお話、印象的でした。
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私は宝塚に入る前から、迷路を歩いた先で扉の前に立つ夢を繰り返し見ていました。迷路の行き止まりには2つの扉があって、
「どっちを開けるんだっけ?」
と思いながら、いつも同じ扉を開けてしまい、誰かに捕まって終わるという夢です。
・・・
今思えば、バレエをやめて宝塚に入り、頑張ってやってきたけれども、心の底からこれでいいのだと思える光は見えないままでした。ずっと迷っていたのだと思います。
起きている間は悩んでいる暇もないので、寝ている間の夢にその迷いが投影されたのでしょう。
トップになってしばらくたったある日、久しぶりにその夢を見ました。
夢の中で私は、見慣れた迷路を歩き、いつものように2つの扉の前に立って、こう思いました。
「私、いつもこっちを開けるから捕まるんだった」
そして初めて違う扉を開けたら誰にも捕まらず、その日を境にその夢は一度も見ていません。
幸せや充実の感じ方は人それぞれだと思います。
私の場合、ほどほどに楽しく平和であるのは、そんなに楽しいことではありません。すごくたいへんで、すごく悩んで、やっとゴールが見つかったときのほうが幸せなのです。
きっと私は、どうにもならない悔しさやもどかしさを経なければ、その喜びと充実感を得ることができない性分なのでしょう。
P187
・・・宝塚の厳しいがゆえの美しさが、大好きでした。
夢だけでは歩いていけない宝塚で、私が夢をつかむためにやってきたことは何か。
答えはいくつもあるのでしょうが、「今、目の前にあることに素直に取り組むこと」ではないかと思います。小さなことも大きな挑戦も、毎日コツコツとやってみて、少しずつできるようになるのはホントに楽しいことです。
「昨日まではこれができなかったけど、今日は少しだけできるようになったから、次はあれもやってみよう」
目の前に現れたハードルを順々に跳び、次の扉、次の扉と開き続けていたら、いつの間にか宝塚を卒業していました。