笑いと涙

その後とその前 (幻冬舎文庫)

笑いと涙、どっちもとても大事ですね。

P121
さだ ・・・このあいだ山田町で歌ったんですけど、かなりたくさんの被災者の方がお見えになったんですね。野外なんです。もうホールがないもんですから。どこかの広場に集まった人を見て山田町の人が、「今、山田町で暮らしてる人が全部来てる」って言うぐらい来てくれたんですよ。それで、ちょっとお天気が崩れかかってて、夜は降るだろうと。「僕、大丈夫ですよ、晴れ男だから。僕が歌ってるうちは降りませんから」って言いながら、風が強かったんですね。で、歌詞カードとか譜面台に置いといたやつが揺れるんですね。そうすると、僕が歌いだしたら、泣くんですよ。前のお客さんがウーッとこうなるんですけど、譜面台が揺れると譜面台を留めるじゃないですか。足で留めながら歌うと笑いが起きるわけですよ。そうすると、何回かそれやるとマネージャーが脇から出てきて、それ押さえますよね。変な格好ですよね。それでも歌わなきゃなんないわけですよ。そしたら、今度はものすごい勢いで、その全体が倒れたんですよ。倒れてきたら、それを押さえようとしたら、今度はマイクがボタッと倒れるんですよ。コントですよね。

寂聴 (笑)

さだ それで、神様いるなあと思ったんです。あのまま歌ってたら、みんなでおいおい泣くムードのところが・・・・・・。

寂聴 笑ってくれた。

さだ それで笑えるんですよね。それでみんながなんかホッとして。そしたらせつない歌がスッと入っていくんですね。

寂聴 なるほどね。