童の心

市川海老蔵 眼に見えない大切なもの (Grazia Books)

「無垢」というのは、ものすごい破壊力を持っていたり、ものすごい創造性を持っていたり、するよなあ・・・と考えたことが、ついこの間あったので、ここに書いてあることが心にひっかかりました。

P24
海老蔵 ・・・男性的な部分と女性的な部分の両方がないと、ものはつくれないとは思う。

茂木 それは荒事をやっていてもそう?悪者をとっちめる勇猛果敢な男って感じの役柄だけれど。

海老蔵 同じです。最近気がついたことなんだけれど、市川家には「荒事は童の心、純真無垢な心で演じろ」という言い伝えがあるんですよ。でも、もしかしたらそれは荒事の核心を、あえてわかりにくくするためのものだったんじゃないかと思ったんです。「童の心」って、非常に納得しやすい言葉でしょう。実際、そういう心でやると、内容的には8割がた豊かに終わる。でも、100を目指すための本質は別のところにあるんじゃないかと思ったんですよ。
 ・・・
 この前の團菊祭で『暫』を演ったとき。本当の核心はこっちなんじゃないかというものをそのときに感じたのだけれど、それがまたかなり微妙なもので。それを強く意識してしまうと、間違った方向に行きかねないものなんです。だからあえて、そこに到達しないように、わかりやすい言葉を先祖は口伝にしたのかなと。

茂木 何が本当の核心だと思ったのかな。

海老蔵 それはまだ言えない。でも、ものをつくっていくうえでは、男らしさの裏に女性の美学、感性がないと絶対に成立しないということに通じるかもしれない。「童の心」と、僕が感じた核心との二重性は。