夢とのシンクロ

隠居宣言 (平凡社新書)

このシンクロもすごいです。

P69
 ・・・仙台の秋保温泉に行ったんです。大きなホテルでね。・・・千年湯っていうのかな、もう一〇〇〇年も前から、温泉が湧いててそこにあったらしいんです。そこの温泉に泊まりまして、夢をみたんです。ぼくは、河原の中に宙づりみたいな状態でいるんですよ。暗いんですね。そしたら向こうから、鎧兜で身を固めた武士が馬に乗ってこっちへやってきたんです。馬は黒い馬でね、黒ずくめですよ。槍を持ってたかな、馬にまたがって向こうからガーッと近づいてきた。よく見たら、水面を走ってるんですよ。ぼくはキリストみたいだと思った。水面をダダダダッと走ってね、バシャッとぼくの前で止まったんですよ。立派な戦国武将の格好をして、ぼくは頭の中で、この人誰なんだろうと思った途端、すぐぼくの頭の中に、「伊達政宗」って聞こえてきたんです。そこで目が覚めた。
 そのことをそこの女将さんに話したんです。そうしたら、ここは昔から伊達政宗隠し湯になっていて、しょっちゅうここの温泉に来てたという書き物が残ってるという。・・・ぼくにとっては、伊達政宗が仙台と結びついているっていうのは、意識下ではあったかもわかんないけど、どうでもいいことだったんで、詳しく知らなかったんです。
 それで、もう温泉の取材どころの騒ぎじゃなくなって、これは絶対伊達政宗の絵を描きたい。仙台に博物館(仙台市博物館)があるというから、何か手掛りがあるかもしれないから行ってみようということで、そこへ行ったんですよ。そうしたら博物館の中に、伊達政宗が着た本物の鎧兜があったんです。それ、真っ黒なんですよ。兜の上部に三日月の飾りをつけて、後は全部真っ黒け。それで、青葉城が博物館の上にあって、そこへ行ったら展望台があって、伊達政宗銅像があった。ぼくの夢そのものがそこにいたんです。ぼくはもう興奮してしまって。家へ帰って伊達政宗の絵を描こうということになって、実際に作品にしたんです。
 まさに、能の世界によく似てるんですよ。ぼくがワキ、亡霊の伊達政宗がシテです。