ちょうどいい

え、なんでまた? (文春文庫)
宮藤官九郎さんのエッセイを読みました。
おもしろかったです〜(^^)
一ヵ所、ご紹介です。

P120
 僕みたいな者でもたまにファンレターを頂きます。ありがたい事です。
 特に公演中は多い。返事は書きませんが感謝の気持ちでいっぱいです。が、中にはどう受け止めて良いのか分からないものもある。
「私は阿部サダヲさん、皆川猿時さんの大ファンです」こんな書き出しからその手紙は始まりました。そして阿部さんや皆川さんがいかに素晴らしい役者か、その魅力について延々と書かれている。え?これ俺じゃなくて安部&皆川宛て?と不安になり宛名を確かめましたが『宮藤官九郎さま』としっかり書いてある。しかし半分過ぎても宮藤の宮の時も出て来ない。
「……というわけで、今回もお目当ては阿部さん&皆川さんで、お2人を中心にお芝居を堪能しました」
 彼女はその芝居をもう一度観たいと考え、前回は真ん中の席だったので2回目はなるべく前の方で観ようと最前列あたりの席で観劇しました。しかしその決断が凶と出る。曰く、阿部&皆川は「すごすぎて」つまり役者としてのポテンシャルが高すぎて、近くで見ると疲れてしまう。並外れた魅力に当てられてしまうらしいのです。
「それにひきかえ宮藤さんは」
 おお?!突然名前を呼ばれて軽い驚きと期待で身を乗り出した。
「ちょうどいいんです」
 ……。
「近くで見ても離れて見ても、すご過ぎないし疲れない、全てにおいてちょうどいいんです」
 まあ確かに阿部くんや皆川くんに比べたらね、鬼気迫る凄みもパワーもないし、テンション低く見えるかも知れない。一生けんめいやってんですけどね。
 とにかく彼女はそんな宮藤さんに興味を持って、劇場ロビーで単行本『いまなんつった?』を購入して読んでみると、これまた「ちょうどいい」面白さで一気に読んでしまったそうです。今では宮藤さんの「ちょうどよさ」の虜だと。これからは阿部さん皆川さん同様、宮藤さんも応援します。
 ・・・
 ・・・思い当たる節はある。自分の「ちょうど良さ」を自覚する局面は多々あります。
 阿部&皆川に限らず、役者さん同士がその個性をぶつけあっている場面で「俺ひとりぐらい、普通にしてた方が良いかな」と、一歩引いてしまうんです。・・・その場の空気が自分に「ちょうど良さ」を求めているような気がしてしまう。・・・