広島の母ちゃん

死にたくなったらこれを読め!

 洋七さんのお母さん、面白すぎです(笑)

 

P177

「母ちゃん、ヒマか」

「ああ、死ぬまでヒマや」

 母ちゃんとは、こんな漫才のようなやり取りは年がら年中。そんななか、「面白い」との噂を聞きつけたテレビプロデューサーから、親子で旅番組をやりませんか、との連絡があったんです。

 ・・・

 奈良でのロケ、私たち親子の後ろには、お決まりのように奈良公園のシカ。そこにプロデューサーから「本番四秒前、三秒前……はい!」と声がかかります。

 カメラを前にして、母ちゃんは堂々と言い放ちました。

「いやあ、昭広。やっぱ京都は奈良に限るな!」

 ずっこける私と笑い転げるスタッフ全員。・・・

「母ちゃん!ここはどこやねん⁉奈良は奈良や!京都は京都で明日に行くんやろ!」

「そうや!ごめん。やり直しやな!えーと、京都は奈良に限るやなくて……奈良に限る?」

「もう限らんといてくれや!母ちゃん頼むわ!」

 そんななか我々が訪れたのは、奈良ではちょっと名の知れたとんかつ店。母ちゃんの役目は店自慢のとんかつを一口食べて、素直に感想を言うだけでした。

 カメラが回り、熱々を口に頬張った母ちゃん。飲み込んで衝撃の一言。

「いやあ、昭広。やっぱりトンカツは豚に限るね!」

 椅子から落ちる私と爆笑するスタッフ。今度は店の親父さんもずっこけて、危うく揚げ油に顔を突っ込むところでしたわ。

「母ちゃん!トンカツは豚以外ないやろ!ワケの分からんこと言うのやめろや!」

 そんなやりとりがそのまま放送されて、一夜にして母ちゃんは私に負けない人気者になってしまったんです。

 ・・・

 加齢のため、ぼちぼち体が弱ってきた頃、私は冥土の土産として、母ちゃんと一緒にハワイ旅行をしたこともありました。

 ・・・

 ・・・私にとっては親孝行をたっぷりできるチャンスですが、贅沢が嫌いな母ちゃんは「私はただ、きれいな海を見られればそれでええ」を笑顔で繰り返すだけ。

 そんなら、できることはただ一つ。うんざりするほどキレイな海を見てもらうことやがな。

 私は小さな船をチャーターして、家族みんなを連れて海に出ることにしたんです。

 ・・・

「母ちゃん。船酔い大丈夫か?」

「いや、もう私はボケとるから、酔っているか分からへんで!」

 ・・・

 それからしばらく経って沖まで出たとき、遠くにクジラが見えた。そうしたら、私たちを連れてきてくれたガイドが、クジラを指差してうちの母ちゃんに叫んだんですよ。

「ヘイ!ママ!ホエール!ホエール!」

 母ちゃんは一度咳払いしてから、

「ワオーーーーーン!」。

 私は腰が抜けるほど驚きましたが、外国人のガイドさんは、母ちゃんがなぜに突如叫び出したのか、日本語分からへんからワケが分かりません。首を傾げながら彼は今一度、

「ヘ、ヘイ、ママ、ママ、ホエール!ホエール!」。

「ワオーーーーーン!」

 その叫びに、ガイドさんは口に人差し指を置いて「シーッ!」と。これ万国共通で「静かにしろ!」やから、それを聞いて母ちゃんは黙るんです。そしてしばらくして、ガイドは

「ヘイ!ヘイ!ママ!ホエール!ホエール!」と。

そんなら母ちゃん、今度は絶叫やがな。

「ウオワオワオーーーーーンッ!」

 ・・・まるで満月に吠えるコヨーテやがな、これ!私でもこんなよくできたネタは作れません。腹が捩れるくらい笑わせてもらいましたわ。

 帰国後、母ちゃんは「アメリカ人は私に〝吠えろー吠えろー〟言うから嫌や!なんでハワイに行ってまで、私は吠えなアカンの!」と怒っておりました。

 どうでしょう。これすべてホンマの話ですよ。