隕石と文明

想いの軌跡 (新潮文庫)

大昔、隕石が落下した地点に文明が栄えたという話、へぇ~と思いました。

 

P222

 ある時、ウィーン大学のアルケッティ教授がこう言った。

古今東西の有名な都市は、みな、水や食糧を確保するに有利だったとか、防衛に適していたとか、交通の要所にあたっていたとかの理由で、とくにその地に発生し、繁栄もしたのだということになっていますよね。

 ところが、ボクに言わせれば、もう一つ原因があるのです。何万年も昔に地球上に落ちてきた大隕石の落下地点の分布図が、文明を生んだ大都市を完全にカバーしているのですよ。もちろん、隕石が落ちても都市が発生しなかった地点もありますがね。つまり隕石の出す磁力も、そこに住みついた人々に、なんらかを創造する力を与えたとは思えませんか」

 教授のこの仮説は、アメリカの石油資本から頼まれて地球上の天然資源の分布図を研究していた時の、副産物なのだという。自然科学に弱い私は、「なるほど」としか言えなかったが、それだけに、相当に幼稚な質問も、恥知らずにできるのだ。

「都市には栄枯盛衰がつきものですが、それも、時代が経るにつれて、磁気の作用が衰えたからでしょうか」

 教授は、大笑いした後で言った。

「磁力は、何万年が単位ですよ。それに反して都市の盛衰は、長くても千年が単位でしょう。だからその盛衰は、そこに住んだ人間のせいと言うしかありませんね」

 磁気の作用によるかどうかはまず置くとしても、私には、「都市」と「文明」の間には、切っても切れない関係があるのではないかという疑問を捨てきれないでいる。まずもって、多くの言語で、都市をあらわす言葉と文明を意味する言葉が、実に良く似ているではないか。

 ・・・

 そして、もしもこの私の想像が正しければ、文明を生まなければ都市と呼ばれる資格はないということになる。いかに占める地域が広くても、そこに住む人の数がいかに多くても、かつて文明を生んだか、それとも現在生みつつあるかしなければ、単なる集落にすぎず、都市ではないというわけだ。余計なことだが、東京にも大隕石が落ちたのだそうな。