他の本も

内田洋子さんのエッセイ、他にも読みました。

「ミラノの太陽、シチリアの月」
ミラノの太陽、シチリアの月 (小学館文庫)

「対岸のヴェネツィア
対岸のヴェネツィア

「十二章のイタリア」
十二章のイタリア

どれも味わい深く、同じくエッセイストの田丸公美子さんが「ミラノの太陽、シチリアの月」の解説にこんな風に書いてました。
なんというか、読んでいるだけで、音が聞こえ、色が浮かび、湿度や匂い、さらに登場人物のふとした表情までわかる気がする文章でした。

 ・・・ため息をつくのは彼女の文章に圧倒されるときで、まずは書き出しの巧みさにうなる。ため息同様、そっけないくらい短い。それなのに興味をそそられ、そのまま内田ワールドにぐいぐい引きこまれていく。・・・日常の風景や部屋のしつらえなどが、さりげない言葉で見事に描写されているときで、緻密な描写は取り立てて言及すべくもない薪や土にまで及ぶのだから舌を巻く。「燃えて二つに折れた薪が、コトンと音を立てる。湿気が少し残る木片からは薄く煙が上がり、燻すような香りが部屋にゆっくり広がる」「秋の収穫を終えた農地は深く耕起されて、灰褐色である。ところどころ地表にへばりつくように、低い草が生えている。それはごく弱々しい緑で、初霜が下りるとたちまち土といっしょに凍ってしまうような儚さである」。ひねりまわした難解な文ではなく、やさしい言葉だけでみずみずしい生命を吹き込んでいる。そんな文章がわずか三ページの中に(「ディアーナが守りたかったもの」)二度も出てくると、私のため息はさらに深くなる。