夜泣き症状

脳は回復する  高次脳機能障害からの脱出 (新潮新書)

つづいて、夜泣き屋だいちゃんとネーミングされた症状についての分析です。
幼児の夜泣きと同じだ、とはなるほど!でした。

P101
 僕の抱えたパニックにはいくつかの種類が存在するようだった。
 例えば、すでに本書でもたびたび書いている「夜のベッドで七転八倒」の症状。我が妻命名では「夜泣き屋だいちゃん」である。
 少々ひねりが足りないが、そのまんま文字通り、夜に泣く僕。・・・
 脳梗塞発症直後から、僕は夜のベッドで謎の窒息感のパニックに襲われ、身体中をかきむしってころげまわることが続いた。・・・
 何か具体的に、一つの事象についての思考が頭の中をぐるぐるしているのではない。ただただ、脳というか胸の中に正体不明の思考の奔流が渦巻いていて、どんなに深呼吸しても、じたばたしてみても、その窒息感から逃れられないのだ。
 ・・・
「脳にリセットボタンがあるなら押したい!」
 そう願ったが、そんな便利なものはない。・・・
 発症のタイミングとしては寝入りばなにウトウトしている状態に起こることもあれば、一度寝た筈なのに数十分後には目が覚めた時にはパニックの中に叩き込まれているというケースもあり、後者の頻度が高い。
 ゆっくり浅く呼吸を繰り返してみてもあまり楽にはならないので、過換気の発作とは違うかもしれない。・・・
 ・・・とにかくベッドの中という環境を変えてみれば楽になるかもと試してみたものの、一切効果はない。
 さらに「焦りの感情」があるならばと思って取った対策が、「寝るのを諦めて仕事をする」だった。・・・
 ・・・
 ガバッと布団をはねのけて仕事部屋に移動し、机に向かって数十分。わーっと思いつく作業をやって、さあスッキリ!病前ならこれで即寝られたはずだ、と布団に飛び込んだが、数分で輾転反側……あれ?である。全く変わっていない。相変わらずの窒息感ではないか。あかん……。
 ・・・
 そして、あれこれ試した結果、このパニックについての最善の対策は、「妻に背中を撫でてもらう」に落ち着いた。
 ・・・ 
 なぜだかわからないが、これが特効なのだった。
 ・・・
 妻の膝枕で妻の呼吸を感じながら背中を撫でてもらうと、心の中の思考の激流がほんのちょっとスピードを落とし、身じろぎすらできぬほどに体をぐるぐるに縛っている縄がゆるむような感じで苦しさがちょっとソフトになっていく。・・・それでも縄がゆるむまでに一時間近くかかるだろうか。
 ようやくおちついて、ちょっと情けなく恥ずかしい気持ちになりながら、疲労困憊で寝室に戻る。・・・
 ・・・
 それにしてもはてさて、このパニック症状は一体なにものだったのだろう?
 ・・・
 ・・・退院直後こそ毎晩のパニックにのたうち回っていた僕だったが、日を追うごとに・・・頻度は下がっていき、そうするうちに夜泣き屋現象が起きる日とそうでない日には明確な違いがあることが分かってきた・・・
 何が違うのか?
 日記を見たら一目瞭然だった。
「日中のスケジュール」が違うのだ。
 ・・・僕の夜泣き屋現象は、日中に「多くの情報が脳に入力された日」に限定して起こっている・・・
 ・・・別につらい経験とか腹立たしい出来事とか、マイナスの情報が多かった日というわけではない。ただ単純に一日に脳に入った情報量が多い日だ。
 そのことに気づいて、ようやく理解した。幼児っぽいじゃない。僕の夜泣き屋現象とは、その言葉の通り「幼児の夜泣き」と同じ状態なのだ。
 ・・・
 ・・・ここまで気付けば対策は至極簡単である。「日中の情報入力を減らす」だ。