専門家の描く最期

看取るあなたへ

国立がんセンターの病院長も務めた、がんの専門家がイメージする最期。具体的でなるほどと思いました。

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 妻の亡くなる姿を見ていて、私も死ぬときは家で死にたい。高齢単独所帯で家で死ぬには周到な準備がいる。もう数年になるが、起床時に五〇分ほど筋トレとストレッチを行なっている。家で死ぬためには直前まで元気でいる必要がある、という矛盾した話。
 筋トレに加えて意識的に毎日一万歩は歩くようにしているし、居合、カヌー、登山にも出かける。したがって、メタボもロコモの徴候もなく、がん検診は古巣の検診センターで精密な検診を二、三年毎に受けているから、男性に多い胃がん、大腸がん、肺がんになっても特殊なものを除けば早期発見できるだろう。だから私が死ぬときは珍しいがんに当たってのことだろう。治る可能性のあるうちは立場上頑張る。いよいよ難しくなったらすべての点滴等を打ち切ってもらい、家に戻って絶食で約一〇日もすれば枯木が倒れるように死ぬだろう。そう願っている。
 訪問診療をしてくれる医師、看護師、介護士のグループとそのうちコネをつける必要がある。私の体力が落ちてきたときのため、扉の施錠、開錠も、いずれ電子ロックに変え、来訪者をテレビ電話で確認する体制を準備することになろう。
 妻の遺品は、未だに目にすると涙が出るので片づけていない。私が死ぬと私の遺品も沢山生ずる。これらはいずれ遺品整理会社と契約するつもりでいる。
 妻の遺骨は現在、近くのお寺にある妻の実家の墓に納めてある。いずれ私が死んだら、遺骨は粉にして、妻の分と一緒にリン酸カルシウムの粉として、二人でカヌーを楽しんだ中禅寺湖の畔にある静かな岸辺に散骨してもらいたい。これもやがて散骨会社と契約する予定でいる。