異国トーキョー漂流記

異国トーキョー漂流記 (集英社文庫)

高野秀行さんの本、また読んでみました。
外国の人と一緒に東京にいると、トーキョーという異国に見えてくる…という、日本にいながらにして異国を感じるエピソードが色々載っていておもしろかったです。
ここは外国語ができない自慢のお話。

P34
「フランス人は外国語が苦手なのよ」シルヴィは自信たっぷりに言い切った。
 そういえば、彼女は日本に二年以上暮らしていながら、日本語がまったく話せない。片言もしゃべれない。例えば、私の家に電話をかけてくるとき、家族の誰が出ても「ヒデユキ?」としか言わない。決まり文句なんだから「ヒデユキさん、います?」くらい覚えてもいいだろう。英語などまったく話せない私の母親さえ、シルヴィが電話してきたときに備えて、「ジャスト・モーメント・プリーズ(ちょっとお待ちください)」というフレーズを覚えたのにだ。
 ・・・
 レッスンのあと、例によって他の人々が集まると、その話題が繰り返された。
 以外にも反論が出た。スペイン人のマリアだ。
「フランス人なんてまだマシよ。スペイン人のほうが外国語はできない」
ギリシア人もできないよ」とアテネ出身のモニカが答える。
「ノー、ノー、ノー」と日ごろ日本人に手厳しいリズが割って入った。
「外国語がいちばんダメなのはイギリス人とアメリカ人。どこでも英語が通じちゃうから絶対覚えようとしないのよ」
 いつの間にか彼女たちは「私たちこそ外国語ができない自慢」をはじめた。
 日本人=外国語音痴説に毒されていた私は愕然とした。だが、そう言えば、このガイジン長屋には欧州人が十人ばかり暮らしているが、人によって日本語能力が極端にちがう。大半はシルヴィと似たり寄ったりで、一年、二年、三年といても、さっぱり覚えない。・・・
 いっぽう、オランダ人のフリッツという人は半年ばかりで簡単な日常会話ができるくらい上達した。彼によれば「オランダ、ベルギー、スイスの人間は外国語が得意だよ。国が小さいから言葉ができなきゃ生き残れないんだ」とのことである。