コンゴの作家

異国トーキョー漂流記 (集英社文庫)

コンゴのドンガラさんのお話。
もともと高野さんがドンガラさんの弟と知り合った縁で、そのお兄さんがフランス語で書いた小説を高野さんが読み、面白くて翻訳したらそのおかげでなんとか大学を卒業できたという、…それはともかく、そのドンガラさんという方は、長嶋さんみたいな所のある方のようで…

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 だいたい、ドンガラさんというのは日常生活にはほんとに無頓着な人らしい。
 コンゴで彼の奥さんに聞いた話だが、昔ドンガラさんはまだ幼い子どもを二人連れて、首都に一軒だけあるスーパーへ買い物に行った。子どもたちを車の中で待たせ買い物を終えたはいいが、車で来たことも子どもたちのこともすべて忘れてしまい、ひとり買い物袋を抱えてバスで戻ってきた。奥さんに「あれ、子どもたちは?」と訊かれて初めて気づき、慌ててスーパーに走っていったなんてこともあったそうだ。
 ドンガラさんは、物理学と化学の両方の博士号をもっていて大学教授をしている。その傍ら書く小説や詩は世界的に評価されている。自分で劇団も主宰し、三島由紀夫サルトルの芝居を上演している。つまり、文系・理系の両方で国際レベルにあるという世界でも数少ない才人なのだが、奥さんは「その他にはまったく能がない人」と一言で片付けていた。
 こうやって接していてもやっぱり茫洋とした"春の海"という感じで、何を考えているのか、奥が深いのかどうかすらよくわからない。