明日をひらく言葉

やなせたかし 明日をひらく言葉 (PHP文庫)

やなせたかしさんの「明日をひらく言葉」という本を読みました。
アンパンマンの歌にしても、やなせたかしさんの言葉は、つらいときほど心にやさしく届く気がしますが、この本を読んで、こういう姿勢で書かれているからなのかなと思いました。

P109
 一九六〇年に生まれたアンパンマンを、一九七九年に子ども向けの絵本にするとき、一番描きたかったことがある。
「正義を行おうとすれば、自分も深く傷つくものだ。でも、そういう捨て身、献身の心なくして、正義は決して行えない」ということだ。
 正義のために、飢えた人のところまで空を飛んで行って、自分の顔をちぎって食べさせる。だが、そうすることで、アンパンマンはエネルギーを失って失速する。
 こういうカッコ悪い正義の味方を描きたい。そんな思いから、アンパンマンは世の中に出ていった。
 そんなヒーローを、子どもたちは好きになってくれるだろうかと不安だった。
 実際、当初は大不評だった。・・・
 だけど、めげなかった。
 作者がしっかり愛してやっていればいい。作者の愛情の中で生きているだけでいい。そう思っていた。
 アンパンマンは、世界最弱のヒーローだ。
 正義を行なう人は強い人かというと、そうではないと思う。普通に弱い人なんだと思う。
 ・・・
 正義に勝ち負けなんて関係ない。困っている人のために愛と勇気をふるって、ただ手をさしのべるということだけなのだ。
 ・・・
 出版から五年ほどたっても、アンパンマンは相変わらず地味で、ほめられることもなく、表面的にはちっとも目立たない存在だった。
 だが、このころ、目に見えないところで何かが動く気配がした。近くの写真屋の主人が「幼稚園に行っているうちの坊主が、毎晩、アンパンマンを読んでくれって言うんだ」と言ってくれたりした。図書館でも、『あんぱんまん』はいつでも貸出中で、新品を入れてもすぐにボロボロになると聞いた。
 アンパンマンを最初に認めたのは、よちよち歩きから、三〜四歳ぐらいの幼児だった。

P117
 アンパンマンが成功したのは、ばいきんまんの功績が大きい。自分で言うのもなんだが、ばいきんまんは世界的傑作だと思う。
 ・・・
 ばいきんまんの登場によって、アンパンマンに、もうひとつのメッセージが生まれた。「共生」だ。
 バイキンは食べ物の敵ではあるけれど、実は、パンだって酵母菌がないとつくれない。バイキンも、食べ物がないと繁殖できない。
 つまり、パンとバイキンは、敵だけれど味方、味方だけれど敵という共生関係にあるわけだ。