同じ本から…ここもなんかいいなと共感しました。
P290
少年の心で、大人の財布で旅をしなさいと書いたのは開高健だ。それを読んだころの私はまだ貧乏旅行の身の上で、いつかもっと年齢を重ねたら大人の財布を持とうと思っていた。それからもう何年もたち、若いときにはなかった余裕は持ちつつあるが、財布自体はまだ子どものままであるような気がする。子どもの心で、子どもの財布での旅しか、私はずっとできないのかもしれない。それが、私の作り上げてきた私に相応な「分」なのだろう。
最近、そういうことがだんだん受け入れられるようになってきた。開きなおりではない。あんまりかっこよくない自分を、許すことができるようになってきた。もっと年齢を重ねても、私自身がかっこいい私やスマートな私になるわけではないと思い知ったのである。年齢を重ねて、自分に見合った旅をして、自分に見合った買い物をして、そうしてただひたすらに、「分」、つまり強固な私になっていくだけだ。