思わず吹き出す

のはなし にぶんのいち~キジの巻~ (宝島社文庫 C い 6-2)

伊集院光さんのエッセイを読みました。
文庫で軽いし、思わず笑ってしまう、満員電車のストレス軽減にぴったりの本でした(^^)
たとえばこんな…

P45
 僕の寝言はひどいらしい。今までたくさんの人から指摘されてきたから相当ひどいのだろう。ちなみに『たくさんの人』というのは、かみさんと実家の家族に男友達とタクシーの運転手などで、愛人からはない。いないから。床屋さんからもある。みっともなくてうかうか寝れたものではない。
『ひどい』のは、その頻度だけでなく、その『質』もらしい。寝言とは思えないほどはっきり、長く、しかもちゃんと内容のある事をいうらしいのだ。いかにも『寝言』の活舌で、いかにも寝言な支離滅裂な内容ならまだ良いが、ちゃんとした寝言ほど厄介なものはない。
 ある時などは、朝起きるとテーブルの上に『豚キムチ丼』が置いてある。丼にかけたラップにかなりの水滴がついているから、おそらく夜中のうちにかみさんが作ったものだろう。さすがの僕も「朝から豚キムチ丼はないだろう」と思ったものの、折角の朝飯だ。とりあえずたいらげた後にかみさんが起きてきたから「おはよう。豚キムチ丼おいしかったけど、朝から豚キムチはないだろう」といったらえらく機嫌が悪いご様子。
 聞けば、夜中の2時に僕から「夜中に悪いんだけど、今から豚キムチ丼を作ってくれないか?本当に申し訳ないけど、頼む」といわれ、しぶしぶ作ったところ出来上がっても起きてくる気配がない。どうしようかと思っていると、今度はさっきの『豚キムチ丼』と全く同じトーンで「夜中に悪いんだけど、今から紙粘土を買ってきてくれないか」と始まったところで「やられた!寝言だ!」と気づいて腹が立つやらあきれるやら。事情を聞いた僕も同情を禁じえないが、加害者が僕とあってはこっちもどうしていいやらだ。
 ある時はタクシーの運転手さんから、降り際に「で、答えはなんです?」と聞かれた。その時はかなりの遠距離だったし、寝不足続きの中だったので自分としては乗った直後から、降りる直前まで寝ていたはずなのだが、どうやら寝言でクイズを出したらしい。
 なぜすぐに『クイズ』だとわかったかというと、『寝言クイズ』に関する苦情を過去数回受けていたから。「あ、それ寝言です」というのも角が立つ話、及び説明に長時間を要する話なので、とりあえず「運転手さんはどう思います?」と聞いてみると「うーん…やっぱり3番かなぁ」との答え。「寝言で(少なくとも)三択クイズを出しているとは…」と自分にあきれつつ「正解!」といって降りた。運転手さんは正解したことにご満悦だったのでとりあえず話のつじつまは合っていそうだが、どんなクイズだったのか気になる。
 ・・・
 かみさんに聞いたところ、過去最悪の僕の寝言は「『寝言じゃないんだ!本当なんだ!よく聞いてくれ!』と哀願する寝言」。もはやかみさんに平謝りするしかないが、かみさんは「もうすっかり慣れた」という。そういってくれるに越したことはないが、おそらく夜中に僕が自宅の火事に気づいても、かみさんは焼けてしまうだろう。