無限の本棚 手放す時代の蒐集論

無限の本棚 増殖版 ──手放す時代の蒐集論 (ちくま文庫)

 何かを集めたい人の心理分析が、なるほどと面白かったです。

 

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 二〇一二年十月二十七日、ぼくは古本屋をはじめた。

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 店内にある本は、すべて自分で仕入れている。お客様からの買取りはしていない。ぼくが日本全国の古本屋を訪ねてまわって、そこで見つけてきた変な本だけを並べている。

 変な本というのはどういうものかというと、ひと言で説明するのは難しい。変なことが書いてある本、変な人が書いた本、普通の人は興味を持たないようなことを克明に解説した本、流行からズレた本、社会のルールから逸脱した本、だいたいそんなようなものだ。

 自分の店を「特殊古書店」と表現するときもあるが、そんなに大袈裟なもんじゃない。ただ、店内の棚の分類が「愛国」「お金持ち」「オカルト」「毛」「刑罰」「ご長寿」「大家族」「秘境と裸族」「埋蔵金」「水商売」「ラーメン」といったようなものだったりするので、まあ特殊古書店と名乗っても許されるのではないだろうか。

 営業形態は不定休で、営業時間もまったく未定。そりぁあ毎日定刻通りに営業したほうがお客様はよろこんでくれるだろう。でも、従業員はぼく一人だけだし、店の他にライター業(むしろこっちが本業)もやっているので、毎日店を開けられるとはかぎらない。打ち合わせで外出してしまうこともあれば、取材や古本の仕入れで遠方へ出掛けてしまうこともある。だから、店として営業できるのは、だいたい月のうち半分ほどだ。

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 古本以外にも、いろいろと変なグッズを取り揃えている。いまあるラインナップは、ブルース・リーやジミ・ヘンドリクスの缶バッジ、ピップエレキバンのジグソーパズル、ファミコン以前の任天堂玩具、八〇年代アイドルのドーナツ盤、東宝怪獣映画の水野久美が出ているシーンだけを集めたプロマイド、ツタンカーメン展の売店で販売されていたツタンカーメン面(お面)……といったところだ。

 マニタ書房は、奇妙な本と出会えるかもしれないところ。なんだかよくわからない物がゴチャッとあるところ。頭のおかしなヴィレッジヴァンガード。そんな場所をイメージしている。小さな個人商店がどんどん消えていき、大型チェーン店ばかりが幅を利かせる時代だ。そんな店が一軒ぐらいあってもいいではないか。

 

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とみさわ 伊集院さんは子供の頃から蒐集癖ってありました?

伊集院 ありましたね。集めてずらっと並べてみたい願望。わかりやすいのは怪獣消しゴムなんですけど、ぼくらは怪獣消しゴムでトントン相撲をやってました。友達は相撲がメインだから強いやつを欲しがるのね。でも、ぼくは集めることがメインだから弱いやつでも欲しい。集めたい、コンプリートしたい、そういう気持ちは非常に強かったですね。

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伊集院 誰かが作ったルールに乗っかるようなコレクションというものがつまんなくなって、その行き着くところとして「落ちている軍手」とか「歯医者の歯の看板イラスト」とか、そういうものを写真で撮り集めるようになりました。

とみさわ それは伊集院さん、エアコレクター心がありますね。

伊集院 めちゃめちゃあります。

とみさわ 似たようなもので、ぼくは道に落ちてる靴底の写真を撮ってます。手袋系は自分ではやってないんですけど、道に落ちてる片手袋はトム・ハンクスもやってますね。

伊集院 ぼくはいま、それがうまくウォーキングの趣味と重なって、同時にいくつか走らせてるんですよ。手袋でしょ、歯医者のマークでしょ、あと公園の遊具のひどいことになってるやつ。

とみさわ ああ、ペンキが剝れたり……。

伊集院 逆にペンキ塗られたりとか。あと食品サンプルって蝋でできてるから、日なたのお店のものは溶けてひどいことになってるの。それを見ることで食べたくなくなるような。それも写真を集めてます。

とみさわ むしろ逆効果な食品サンプル。エアコレクター心があると、旅行中も忙しくてしょうがないでしょう?

伊集院 忙しいですねー(笑)。そういう路上観察的に集めているものが一個でもあると、歩いているだけでも退屈しない。

とみさわ ぼくも古本の仕入れで日本中いろんなところに行くんですけど、とにかく集めるものが多くて観光どころじゃないですね。

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伊集院 ・・・コレクションも物量や価格を競うことになってしまうとつまらないことになる。本気でビル・ゲイツが挑んできたら勝てやしないんだから。そうすると、プロコレクターとしての切り方とか、眼のつけどころみたいなことが重要になってくると思うんです。

とみさわ 物量を競う集め方は、最終的にみんな一緒になっちゃうんですよね。ぼくの持論のひとつに「コレクションとは新しい視点の提案である」というのがあります。伊集院さんのおっしゃる「切り方」というのも、まさしくそれですね。

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伊集院 この本の読者に「ひどい趣味だな」って言われそうですけど、いま他人のコレクションをコレクションするってのにハマり始めまして……。

とみさわ なんですかそれ?

伊集院 ぼくの友達で電車マニアの渡辺くんっていう人がいて、全部の電車の駅に行くのを目標にしてるんですけど、彼がまだ行ってない駅にぼくが先に行っちゃうっていう。ぼくは電車になんの興味もないのに(笑)。

とみさわ わはは、ひどい!

伊集院 お金のない若手から「行ってみたいところがある」って話を聞くと、じゃあ行くための金は出してやるから、そのおもしろさをおれに説明してくれと。ヤーレンズの出井(隼之介)くんっていう若手はコーヒーマニアで、とにかくおいしいカフェに全部行きたいんだけど、一杯二五〇〇円のカフェなんて収入的に行けない。

とみさわ そりゃそうですね。

伊集院 だから、その金はおれがもつから、コーヒーマニアの人にとってこれがどう尊い一杯なのか、それをちゃんと説明してくれって。そういうのはお互いWinWinになるし、他人の信仰をコレクションするっていう。

とみさわ 優しい先輩じゃないですか。

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伊集院 他に変な趣味で言うと、靖国神社のフリーマーケットって軍関係のものが多くて、戦時中にちょっと流通した絵葉書とか軍票みたいなものがよく出るんですよ。

とみさわ 場所柄そうなるでしょうね。

伊集院 その古い郵便物には受領印みたいなものが捺されてるんだけど、中にはそれが無いものがある。それを宛先まで届けに行くって謎の行動が。そのときに自分がタレントであることでの利点があって、アポなしで訪問してもそれほど警戒されないという。

とみさわ そっか。顔を知られてるから。

伊集院 行くと「あれ?伊集院さん何ですか」なんて言われて(笑)。

とみさわ えっ、それは何か番組の収録じゃなくて、プライベートで行くんですか?

伊集院 プライベートです。ただ、ぼくにはラジオがあるから、その体験がおもしろかったらラジオで喋ることができる。

とみさわ すごいなー。いや、今日の対談でどうしてもお聞きしたかったのは「著名人であるがゆえのコレクションの苦悩」だったんですよ。テレビで「何々を集めてます」って言うとファンがどさっと送ってくれて、一気に集まっちゃってつまらないとか。でも、いまの話は伊集院さんが顔を知られてるからこそで、その話のほうが断然おもしろいですね。

伊集院 おっしゃるように「集まっちゃうつまらなさ」はたしかにあるんです。あと「調子乗ってんじゃねえぞ」ってからまれちゃうとか(笑)。それはまあしょうがないことなんですけど、やっぱり顔が知られてるおかげで多少信頼してもらえるとか、教えてもらえたりとか、そっちの方に感謝しないと。あと、伊集院さんならこれを役立ててくれそうだからって連絡くれる人とかもいるんで、それはちょっと得ですかね。

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 ま、いろんなコレクション話?をしましたけど、覆面歌手のレコードにこだわって集めるとか、フィギュアでも、太ったキャラのフィギュアだけを集めるとか、そういうふうに世界を切っていくのは大切なことで、その切り方のうまさは必要になってくるでしょう。

とみさわ 自分だけの視点ということですね。

伊集院 自分の手に負える寸法と、楽しめる難易度と、他人に話して楽しんでもらえるおもしろさと、プロコレクターの定義の一つは「切り方の巧さ」ってことでどうでしょう。