プリズム

プリズム

 一風変わった恋愛小説でした。

 巻末にあった作者の言葉と、訳者あとがきです。

 

P244

 本作は、二〇一八年夏から二〇一九年秋まで「Axt」に『一種の恋愛小説』というタイトルで連載された。・・・大きな事件もない「心の中だけで展開する物語」にしたかった。・・・

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 一番気になっていたのは、現実だったら私があまり仲良くなれなかったと思うこの四人を、果たして作品の最後に好きになれるかどうかだった。率直な気持ちを言うと、「好奇心くらいは持つかもしれないけれど、仲良くなるのは無理」だ。無邪気すぎるから、複雑すぎるから、暗すぎるから、傷が多すぎるから、といった理由からだった。実はそれが目的で設定した人物たちでもあった。健全な社会の構成員のように見えて、どこか欠陥があって、深く知るとむしろがっかりするかもしれない人たち。平凡だが描き出すのが難しい彼らの心を、淡々と解き明かしてみたかった。

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 ファン・ジェイン。イ・ホゲ。ペク・ドウォン。チョン・イェジン。本文に苗字まですべて言及することはできなかったが、私が思いついた四人の名前はこうだった。そして私は作品が終わる頃、彼ら四人を理解し、応援するようになっていた。恋愛小説とはいっても、登場人物の恋愛の成否ばかりを詮索する話は書きたくなかった。彼らは、愛というありふれてはいるが特別な感情を経験し、自分を押し広げ、拡張させて世の中に向かって手を伸ばす。それが私の描きたかった愛の本質と効果でもあった。・・・

 

P249

 ・・・著者の三作目は、まさに「一種の恋愛小説」だ。初めての恋愛小説だが、今回も著者が目を向けるのは、人と人の間を結ぶ「愛」であり、その愛の一つの形としての「恋愛」だ。恋愛の成り行きよりも、恋愛という経験を通して人がどれだけ成長できるか、自分を見つめ直すことができるかが著者の関心事だ。

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 本書の特徴は、愛の「始まり」と同じくらいに、いやそれ以上丁寧に、愛の「終わり」をじっと見つめていることだ。たまたまの出会いから始まった愛は、しばらくすると思いがけないきっかけでもろくも崩れてしまう。心に残る傷の痛み、そして後悔。それなのにまた少し経つと、いつのまにか別の顔をして新しい愛が始まっている。つながって、断ち切って、またつながる……。人は誰かとつながらなくては生きていけないのか。

 成就しなかった愛だったけれど、その経験をとおして、四人はそれぞれ自らと向き合い、知らなかった自分に気づかされる。彼らは確実に変わっている。物語は、より豊かな愛に踏み出していけそうな、そしていつかはプリズムのように輝く愛に到達できそうな予感を感じさせて、再び愛のスタート地点に立ったところで終わる。

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 本書は著者のこれまでの二作品とは雰囲気も性格もまったく違う。特に大きな事件の起こらない「心の中だけで展開する物語」にしたいと考えてチャレンジしたと著者は語ってくれたが、その言葉通り、季節の移り変わりのなかで、登場人物の気持ちの移ろいにじっくりと寄り添える静かな作品になっている。色あいはそれぞれ異なるが、「愛の三部作」と呼んでもよいような『アーモンド』『三十の反撃』、そして『プリズム』。現代を生きる私たちにとって、人を愛するということを改めて考えるきっかけになればと心から願っている。・・・