一万円選書で紹介されていて、読んでみました。面白かったです。
こちらは訳者あとがきです。
P377
こんなかっこいいジジイになりたい!一読、そう思った。
バック・シャッツ、皮肉屋でヘビースモーカーの八十七歳。かつてはメンフィス警察殺人課の名刑事。現在は、手入れができなくなって人まかせにした芝生が春にはあいかわらず緑になることにむかついている、超後期高齢者。ノルマンディー上陸作戦に参加し、ナチの捕虜収容所での過酷な生活にも耐えぬいたタフな肉体は衰え果て、記憶のほうもすっかり怪しくなっている。
ところがある日、ユダヤ人であるバックを捕虜収容所でさんざんに虐待したナチの卑劣漢ジーグラーが、盗んだ金塊とともにドイツを脱出し、いまも生きているらしいことがわかった。最初は乗り気ではなかったが、すっかり時代遅れになった捜査技術をおぎなってくれるITに強い孫に助けられ、バックはジーグラーの追跡を始める。だが、金塊を狙う有象無象が次々と出現し、行く先々で血なまぐさい殺人事件が……。
新鋭ダニエル・フリードマンが、最高にユニークなヒーローを誕生させた。弱った体でまともなパンチもくりだせず、アルツハイマーを発症したのではないかと怯えている八十七歳が、老いに負けず……というか、それを逆手にとって、シニカルなジョークを連発しながら胸のすく活躍を見せるのだ。
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本書の第一の魅力は、なんといっても主人公のバック・シャッツのキャラクターだろう。初期の認知症かもしれないよれよれの老人が、禁煙の規則をものともせずラッキーストライクを吸いまくり、三五七マグナムを振りまわし、痛烈な皮肉を吐きまくる。・・・バックのユーモアの爆発力と負けじ魂はどうだ。その根底には、苦難の歴史を生きのびてきたユダヤ人の不屈のメンタリティがあると思うが、老人問題が重苦しくのしかかっているこのご時世に、読む者を呵々と笑わせてくれ、それがどうしたという気分にさせてくれる。
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作者のダニエル・フリードマンはメンフィスで育ち、ニューヨーク大学ロースクールを卒業した。現在はニューヨークで弁護士として働いている。
バックのモデルは、第二次世界大戦に従事し、二〇一三年に九十七歳で亡くなった彼の祖父だそうだ。作者のツイッターで写真を見ると、・・・渋い矍鑠としたおじいさんである。そして、やはり弁護士だったフリードマンの父親は、二〇〇二年にメンフィスの駐車場で離婚訴訟の結果に怒り狂った男によって撃ち殺されている。本書にはこの体験が投影されており、弁護士志望のバックの孫は、作者自身と重なる部分が多いのだろう。
『もう年はとれない』の成功を受けて、二〇一四年の四月にはバック・シャッツを主人公とした二作目Don't Ever Look Backが刊行され、こちらも好評を博している。バックのもとを、メンフィス警察時代に遭遇した大泥棒が訪ねてきてある依頼をする……というところから、物語は始まる。彼の新たな活躍が楽しみだ。
本書を読んで以来、病院の待合室にすわっている老人たちを見ると、じつはこの中にもバック・シャッツがいるかもしれないという気がして、訳者はなんだか楽しくなってしまう。弱々しい年寄り―と見せて、ところがどっこい、そのへんの若い者などとうてい歯がたたない〝食えない〟じいさん、ばあさんがきっといて、主治医よりも長生きしているにちがいない。・・・
