光浦靖子さんのカナダ留学記、いろんなエピソードがありました。
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ビーチの帰りにヘレナから「週末に〇〇〇(クラスメイト)の誕生日パーティーがあるけど来ない?」と誘われました。あら、気に入られちゃった?ヘレナは続けます。「初級と中級の生徒は全員誘ってるから」。あ、全員参加ですか。
誕生日パーティーは複数人で家を借りている学生の、その家の空き地のような庭で行われました。主催者はヘレナ。ヘレナが飾り付けをし、飲み物を用意し、料理を作ります。ゲストは20人はいたでしょうか。度を越した働き者です。ここまで人のために動けるとは。
日も暮れ、お酒もちょっと入ってきたのですが、正直、今ひとつ盛り上がっていませんでした。・・・
そんな時ヘレナが言い出しました。「みんなの国の曲を1曲ずつかけよう」と。「そして踊ろう!」と。何を言い出すのやら。「まずはコロンビアの曲。はい。そことそこ、ペアになって。私のマネして!」。誰かがヤジります。「でた。女王様」「そう。これは義務だよ!」。
男女をペアにし、ヘレナがお手本を見せます。今まで距離のあった同士も、フィジカルに近くなれば必然と会話も始まります。ジャパニーズには不可能な腰の振りも、できないことが笑いになります。ラティーノたちの腰の振りも上手すぎて笑いになります。お手本通りできなかったペアにはテキーラショット。飲めない人にはヘレナが代わりに飲みます。ダンス、テキーラ、笑い声。ラテンの三種の神器を見たようでした。
「こやつ、できるな」
この時、ヘレナに対する気持ちが変わりました。ガサツなふりをしながら、この人、会話がしやすい環境を作ったよね?
・・・この辺りからヘレナとの距離がぐんぐん狭まっていきました。知れば知るほど驚くばかりで。ヘレナ、コロンビア人、29歳。ヘレナには息子が一人います。今、コロンビアでヘレナの両親と暮らしています。彼は14歳です。そう、ヘレナが15歳の時に産んだ子です。コロンビアって子供産むの早いんだね、じゃなくて。ヘレナいわく、やっぱり「子供が子供を産むとは何事だ」と怒る人もいたそうです。負けず嫌いのヘレナは誰にも否定させない、と、そこから家事、育児、勉強、仕事、全部こなしたそうです。それ以来、3時間くらいしか眠れないんだそうです。その子供にいい教育を受けさせたいがため、カナダの永住権を獲得するため、留学しているそうです。
知れば知るほど全てが私と反対の人です。ヘレナは数学が好き。コンピューターが好き。車、バイクが好き。でも家事は嫌い。本人は敬虔なクリスチャンではないと言いますが、何かあれば神に感謝し、助けを求めます。毎日、家族と電話します。家族を最優先します。人との付き合い方は、まず一度受け入れてから好き、嫌い、合う、合わない、を決めます。だからみんな誘うんですって。私のように、細かい網の目をくぐり抜けた、私と気が合うに違いない、と思えた人を誘うんじゃないんです。理不尽なことは、しゃーないとあっさり受け入れ、次に何ができるかを考えます。理がないから理不尽なのに、「なんで?なんで?」と私のように泣きながら自分が納得できる理由を求めたりしません。
コロンビアは政治が不安定だから、いつ何が変わるかわからないし、実際変わったりもしたし、だから受け入れて、そこで楽しむしかないんだ、と言っていました。そこで柔軟に、強くなったんじゃないかな、と。
ヘレナは感情の振り幅がデカいです。私はヘレナから感情に対して、特にポジティブな感情なら多少無責任でもいいんだということを学びました。例えば「嬉しい」という感情。私は、大袈裟にいうと「嬉しい、絶対大丈夫、これは嬉しいこと。さあ喜ぼう」てな感じで、感情は濃度100パーセントの抽出されたものしか、自分が責任を持ってハンコを押せるものしか表していませんでした。でもヘレナは「あ、嬉しそうな予感。イェーイ‼さあ、みんなも一緒に喜んじゃって。乗っかっちゃってー」と、見切り発車でも周りにぶちまける感じです。喜ぶことが好きで、人の喜びにもすぐに乗っかります。もちろん、不機嫌の表現力も相当で慣れるまでは驚きますが、でもやっぱり彼女といるとポジティブな感情が一人で味わうより2倍、3倍になるので、彼女の周りに人が集まってきます。彼女が笑えばみんなも笑うのがわかってきました。
そして、バンクーバーに来て、いろんな国の人と接するようになって思うようになりました。笑いのハードルは低い方が幸せなんじゃないか?と。お笑いの世界で長年働き、お笑いを見る目だけはどんどん肥えて、「あれは面白い」「これは面白くない」「このパターンね」「はいはい、〇〇の変化系ね」なんて批評家みたいになっていって、じゃあ自分は自分のお眼鏡に適うような崇高なお笑いをしているんですか?と自問したら、もう何もボケられなくなってしまって……で、現在の私となります。そりゃ職業だったら笑いのハードルを上げるのは義務でしょう。でも、生きてゆくなら「それ、面白くない」なんて批評する目ごと捨てた方が幸せです。なんだって笑えるんだから。笑うということはハッピーそのものです。
・・・
ヘレナはよく笑います。笑いのハードルは相当低いです。面白いから人気者なんじゃなくて、よく笑うから人気者なんです。彼女の口癖は「I can do it」。私の口癖は「I can't do it」。21個年下の彼女は毎日、お母さんのように私の面倒を見てくれます。「ヤスコ、you can do it!」と。「お母さんのように」と表現すると「私はヤスコよりずっと若い」と怒るので「デイケアのように」と言い直すと腹を抱えて笑います。何がそんなに面白いんだろう?
彼女の名前は「灯り」を意味するそうです。私の名前には「光」が入っています。
そこだけは似てるね。
