おいしいアンソロジー スープ

おいしいアンソロジー スープ (だいわ文庫)

 スープって、からだにもこころにもやさしいなと・・・

 

P76

 何もかもわずらわしいなあ、と思う日に 小林カツ代

 

 あーあ、わずらわしいなあ、と思うことありません?

 生きていく、生活していく、暮らしていく、という中で出会うもろもろのこと、人間関係、幸せな家庭すらもわずらわしいと思うことってないかしら?

 私はあります、大いにあります。もうみーんな捨ててどっかひとりでツツツと生きていきたいなアとか。

 ・・・

 友人のY子がある時、

「私ねエ、時々もう夫も子どもも家も何もいらない。気に入った本がいっぱいつまった本だなだけはあるアパートの四畳半か何かで、ヨレヨレのジーンズと、洗いざらしの木綿のシャツを着た私がたったひとりで暮らしていく、それが、ほんとの私じゃないかなアって思うの」

 私の家が二軒入りそうなほどの広いすてきな家と、かわいい二人の子どもがいて、やりがいのある仕事を持ち、まさに絵に描いたような幸せ家庭を持つY子なのに、ぽつーんとそういったことがありました。

 今、それこそ悲しいことや、つらいことを背中にしょって生きている人がこれを聞いたら、なんて贅沢な、幸せすぎて、豊かすぎて、だからそんな悩みが出るのだわ、と、あきれはてるかも知れません。

 でも私は、自分の現在の生活を多少なりとも懐疑的、客観的に見る目は失いたくありません。

 現実には、家族との幸せな暮らしより、ヨレヨレのジーンズと洗いざらしのシャツの生活のほうがいいかどうか疑問だけれど、Y子のいうそれはひとつのたとえであって、人間誰しもが、現在の生活をああわずらわしいなア、抜け出したいなアとの思いを、時として持つことがあるのではないかしら。・・・

 だからといって、気軽にスイスイどっかへ蒸発してしまうかというと、それはなかなかやらない、そこがいいんですねエ。人間関係の、こまごましたわずらわしさの中で、それでもやっぱり生きて、働いて、暮らしていく。

 ・・・そこでじっくりと料理でも作ってといいたいけれど、それもわずらわしいのであれば、ぱあーっと作ってじっくり味わうものにしましょうか。

 オニオン・スープは自分で作ると素晴らしくおいしくて、寒い寒い日にこれをのむと、この世にこんなおいしいスープがあるだろうかと思うほど好きなスープなんだけど、なにせ膨大に時間を使わなければなりません。

 だから、ま、わずらわしいな、逃げ出したいなアと思う日には、少うし不向き。

 そこで缶詰やレトルトパックなどを使っちゃう。作り方はカツ代風にプラス・アルファするやり方で。

 ・・・

 胃のなかがぽあーとあったまってくるとね、この今の、自分の居場所が一番良いな、こんなおいしいものゆっくり味わえるこの状況、いいな、おいしいな、あったかいな、ときっと思えてくるでしょう。

 さて、私も今から作ろうっと。今日は缶詰であります。

 

●オニオン・グラタン・スープ

材料(4人分)

 オニオン・スープ 1缶

 水 3カップ

 玉ネギ 2個

 バター 大サジ2

 ベイリーフ 1枚

 ピザチーズ 1/2カップ

 フランスパン 4枚

 塩、コショウ 各少々

 

作り方

①玉ネギは繊維を断ち切る切り方で薄切りにし、バターで時間があればじっくり、なければサササと炒める。

②①に水とオニオン・スープとベイリーフを加えてコトコト20分くらい煮る。量が足りなければ水をふやしてもよい。

③玉ネギがやわらかくなったら、味をみて塩、コショウでととのえ、耐熱性の器に分け入れ、薄く切ったフランスパンを浮かべ、その上にチーズをたっぷりのせる。

④オーブンに入れ250度にして、チーズがおいしそうに焼けたら出来上がり。

 スープさえ熱くしてあれば、オーブン・トースターでも出来ます。

 

P192

 豆腐のポタージュ 高山なおみ

 

 夫は事務仕事がたてこんでくると、とたんに食欲が落ちてきます。お粥や雑炊、うどん、そうめんなど、のどごしのいい優しい味つけの料理ばかりをほしがります。

 そうとは知らず、せっかくこしらえた料理を残されて不機嫌な私に、「和食や洋食、野菜料理や肉料理とか、ご馳走の分け方はいろいろあるけど、『元気があるときの料理』と、『元気がないときの料理』という分け方だってあるはずだ」と訴えます。くたびれているときは特に、がんばって料理を作られると、食べるのがますます辛くなるのだそうです。ふだんのごはんは大げさなものでなく、簡素なのがいちばんいい。いくら好物のポタージュでも、レストランみたいに完璧になめらかなのが出てきたら、宇宙食みたいで食べる興味がなくなるとまで言います。

 すり鉢は大好きだけど、フードプロセッサーやミキサーはどうもおっくう。裏ごしなんかもってのほかな私にとっては好都合です。それでこのところ、簡単なポタージュをいろいろと工夫していました。

 ・・・

 まず、ふたができる厚手の小さめの鍋を用意します。作り方の基本は、たとえばじゃがいもとにんじんの場合なら、じゃがいも1個とにんじん1/2本の薄切りを鍋に入れ、水をひたひたに注ぎます(1カップが目安)。バター10グラム、ローリエ1枚、固形スープの素1/2個(2グラム)、塩ひとつまみを加えて、ふたをして火にかけ、煮立ったら弱火に。やわらかくなるまで煮ます。泡立器でなめらかにつぶし(少し粒が残っていても、よくすりつぶしても、その加減はお好みで)、牛乳1カップを加えて混ぜながらひと煮立ち。味をみて、足りなかったら塩少々と黒こしょうをひきます。塩加減はあくまでもひかえめなのがいいようです。

 さて、野菜カゴにめぼしい野菜が何もなかったある朝、冷蔵庫にぽつんと残っていた木綿豆腐でためしに豆腐のポタージュを作ってみました。これがなかなかの大ヒット。バターを加えなくても充分にコクがあり「うーん、このつぶれすぎてないところがうまい」と、夫が唸りました。

 

【作り方】2人分

1 木綿豆腐1/2丁の水けを軽くきってすり鉢に入れ、なめらかにすりつぶします。

2 1のすり鉢に1カップの水を加えて溶きのばし、鍋に移し入れます。

3 牛乳3/4~1カップ、刻んだ固形スープの素1/3個、塩ひとつまみ、ローリエ1枚を加え、中火にかけます。

4 泡立器で混ぜながら弱火に落とし、煮立つ直前に火をとめます。塩で味をととのえ、黒こしょうをひいてでき上がりです。

*沸騰させてしまうと、豆腐がまたかたまろうとするのか、モロモロになります。それもまた、おいしいのですが。