神田伯山さんの対談集、面白かったです。
アナウンサーの弘中さん
P44
弘中 私、やりたいことがたくさんあるんです。ひとつしか職業がないって、つまらなくないですか?
松之丞 面白いのが、そういうのってフリーの発想じゃないですか。でも弘中さんって、テレ朝にいる意味をすごく自覚して動いていますよね?
弘中 私がフリーになると、タレントとしてしか生きていけない気がするんです。それこそ私自身の話はどうでもよくて、もっと外見の部分とか、「じゃあ、ここでちょっと毒舌を言ってもらって」みたいな使い方しかされないだろうな、と。
松之丞 なるほどなあ。
弘中 それだと社会への影響も短期的じゃないですか。たとえブレイクしても2、3年で落ち目になる、みたいな。でも私はやっぱり、社会に対してムーブメントを起こすことを狙って生きてるので。
松之丞 本気な人ですね(笑)。
弘中 でも、松之丞さんも本気じゃないですか。
・・・
・・・松之丞さんの講談は、さらに現代的な感覚もあると思いました。
松之丞 そう聴いてもらえるのはうれしいです。ただ、型は外していないんですね。アナウンサーもそうじゃないですか?弘中さんも局アナとしての型を押さえつつ、自由に振る舞っているところが魅力的だなと。その攻めずにはいられない感じは、どこからくるんですか?
弘中 太く短く生きよう、みたいな(笑)。
松之丞 基本、アウトローの発想ですよね(笑)。憧れてアナウンサーになったわけじゃないっていうのもありますかね。
弘中 そうかもしれないです。もともと「こうなりたい!」っていう理想や目標がないんですよ、私。だから、呼ばれるがままっていう感じなのかも。
松之丞 成り行きなんですね。そこできちんとアナウンサーの型をこなしているところがいいと思うんです。だから『ミュージックステーション』ができるわけじゃないですか。アナウンサーをやってて、苦しいこともありますか?
弘中 ありますよ。例えば「女子アナ」って言われてしまうのも……。
・・・
同じ仕事でも、女性っていうだけで、サブの役しか回ってこなかったりしますからね。・・・
・・・
・・・それ以前に「頑張って勉強して、さまざまな選択肢も手にしたのに、どうしてその商売を選ぶの?」って言ってくる人もいるんですよ。いや私、アナウンサーにはなりましたけど、いわゆる「女子アナ」になったわけではない。ですので、そういう認識をちょっと変えていきたいんですよね。才能のある下の世代の子たちにも、もっとアナウンサーとして活躍してほしいと思うので。
アントニオ猪木さん。
P115
伯山 ・・・ちょっとアドバイスもいただきたくて、このたび僕は真打という位に昇進したんです。同時に伯山という名跡を襲名しまして。
猪木 ええ、聞いています。
伯山 それで真打になると寄席で主任……つまり、プロレスでいうところのメインイベントに出られるんです。そこで、猪木さんにメインイベンターとしての心得というか、助言をいただけたらと。
猪木 ムフフ。名前に「ジェット・シン」をつければいいですよ。
伯山 神田伯山・ジェット・シンですか?斬新なアイデア、ありがとうございます(笑)。メインイベントともなると、お客さんの期待に応えなくては、という部分も出てきますよね。僕でいうと、ネタによって、確実にウケるものや、自分はやりたいけどお客さんにウケるかは未知数のものがあったりします。そのへんのチョイスについて、猪木さんは異種格闘技戦など、ある意味どう転ぶかわからない興行も多くやられていたじゃないですか。そこに臨む意気込みというのはどのようなものだったのかなと。
猪木 あまり計算したことがないんですね。ひとつには、決まった流れが嫌いなんです。馬鹿になれっていうぐらいで、ハミ出てもいいじゃないかと。で、結果は結果でしょうがないですし。
伯山 そんな猪木さんでも、こいつとの試合は全然かみ合わなくてつらいなっていうときもありましたか?
猪木 プロレスの試合でもいましたよ(笑)。
伯山 そんなときはどうするんですか。
猪木 バンッて一発で終わらせます(笑)。
伯山 わかりやすい(笑)。
P205
伯山 ・・・矢野先生、僕の披露パーティで一緒に写真撮影をさせてもらったときに、ボソッと耳元で、「おまえ、妥協すんなよ」っておっしゃったの、覚えてますか。
矢野 覚えてない。
伯山 あの意味を今日は伺いたかったんですよ。
矢野 いや、でも、そもそもあなたは妥協しないでしょ?
伯山 それが、よく妥協してしまうんです(笑)。ただ、矢野先生があそこでああいうふうにおっしゃったのは、かつて誰かに「こいつ、妥協したな」と感じた瞬間があったのかなと思って。
矢野 いや、そうじゃなくてね。例えば、越路吹雪さんと何回かマージャンをやったことがあるのね。それで、僕がヤミテンですごい手をテンパってて、しかも絶対安パイだと思って場に出てくるはずなのに、流れちゃった。越路さんがずっと握っちゃってたんだ。でも、どうにも使いようのないパイなんだよ?「これ、どうして流さなかったの」って聞いたら、「私ね、なんとなくイヤだったの」って。
高田 理由がいいですね、「なんとなくイヤ」(笑)。
矢野 なんとなくイヤなことは、絶対にしないんだって。彼女に感じるオーラみたいなものって、そういうところから来てるのかなと思ったよね。こっちは「なんとなくイヤ」と思ってもやらなきゃならないことの多い商売だから(笑)。
高田 スターは違う。逆なんだ。伯山にそれを伝えたかったんですね。
