マンガがあるじゃないか(14歳の世渡り術) わたしをつくったこの一冊

マンガがあるじゃないか (14歳の世渡り術)

 マンガ大好きなので、一冊って言われたら、迷って決められない気がします・・・

 

P10

「働く」ことの根本を考えさせてくれる一冊

 脚本家 木皿泉

『白エリと青エリ』 関根美有 タバブックス

白エリと青エリ1

 この本は、4世代10人家族の末っ子、進路に悩む高校生のエリが、働くとはどういうことなのかを家族に聞きながら探っていく漫画です。・・・

 この大家族、エリ以外の9人は全員働いています。職種は、サラリーマンに職人、翻訳家、料理人に専業主婦などなど……とバラバラ。みんな働く時間も違うから、全員が揃う昼食は年に3回あるかないかだけれど、揃ったときは必ず、お母さんが作ったそうめんを一緒に食べるんです。

 いまどき大家族、という設定も珍しくて面白かったのですが、この本で描かれる「働き方」は、これまでの漫画や小説とはちょっと違って、そこがいいのです。

 ・・・『白エリと青エリ』には、それぞれが上も下もなく、特にのし上がっていくようなお話もありません。仕事をする目的や、選び方、取り組み方は、人それぞれ違うのだと教えてくれるマンガです。

 ・・・

 最後に、忙しくて仕事に時間を奪われる、ということに対して、お母さんがポジティブにとらえなおした言葉を紹介します。仕事を人生の一部分としてとらえた、真実にあふれた言葉です。

「でもね、『忙しくてよかった』って時もあるのよ。仕事は楽しい時を奪ってゆくけど、辛い時間も同じようにもっていってくれるもん」

 

P16

 働き、恋する女子のためのバイブル

 芸人 光浦靖子オアシズ

エースをねらえ!』 山本鈴美香 集英社

エースをねらえ! 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

 

 女の子のスポ根物語に、ちょっと恋のエッセンスが入ってくるのがたまらなく好きです。

 ・・・

 これはただのスポ根マンガではないということも、しっかりと皆さんに伝えたい。努力・友情・勝利だけではない、女の生き方を考えさせられるマンガなのです。

 それが最もよく表れているイチオシの名台詞があります。ひろみがテニスと真摯に向き合いはじめた頃、ひろみに好意を寄せる藤堂先輩を諭すために、宗方コーチが言った言葉。

「男なら女の成長をさまたげるような愛し方はするな!」

 高校生男子に対して言う内容とはとても思えません。

 素晴らしい。

 これはですね、日本の社会に不足している部分だと思います。女がやることに男が理解を示し、精一杯活躍させ、それを支えるというこの感じ。・・・はー。こういう考えの男が増えたらいいなー。

 

P73

 人間は変化する

 作家・ドイツ文学者 中野京子

火の鳥4 鳳凰編』 手塚治虫 朝日新聞出版

火の鳥4

 

 このマンガのおもしろさは、悪のかたまりとして登場した人間と、善を代表するような人間が出会い、やがて逆転していくところにあります。人というのは、単純なものではない、心せねばならないということが、とてもよくわかります。

 ・・・「鳳凰編」の主人公我王は、生まれたときに崖から落ちて片目片腕、顔に大きな痣のある体になってしまいます。みんなにいじめられ、悲惨な子ども時代を送るうちに、どうせそうなら散々悪いことをしてやるぞと強盗の親分になって、人を殺すのさえなんとも思わない暮らしを続けます。物語が進み、さまざまな経験を重ねるうち、ひょんなことから怒りのパワーが彫刻へ向かい、片腕で鬼神像を彫りはじめます。それを見た高僧が、「お前はこのために生まれてきたのかもしれないな」と言うのです。彼が作った木彫はすさまじいエネルギーを放ち、苦悩にあえぐ民衆の心を救います。そのことによって我王自身も救われるようになっていくのです。

 いっぽう、外見にも才能にも恵まれた茜丸という彫刻家がいて、旅のとちゅうで悪人時代の我王と出会います。幸せな人生を歩んできた彼は人を疑うことを知らず、おそらくそのことが荒んだ我王の神経を逆なでしたのでしょう、意味もなく右腕を切りつけられ、使いものにならなくされてしまいます。いったんは絶望した茜丸でしたが、「まだ左腕がある、右腕なら一日でできるところを左腕で一年かけてやればいい」と悟り、血のにじむような努力の末に、日本一の彫刻家として大仏建立の責任者にまで出世していくのです。我王への憎しみは露ほども残っていませんでした。

 あるとき、二人の才能を戦わせようという政治家の動きがあり、屋根に載せる鬼瓦作りが命じられます。鬼瓦というのは、魔を払うために飾るものなので、怒りを創造の源にする我王のほうが圧倒的なパワーを持ちます。茜丸は我王の作品を見た瞬間、自分の負けに気づくのですが、権力者の思惑から、茜丸の勝利が決まります。しかし才能は才能を知ります。茜丸は初めて嫉妬を抱くのです。自分より優れた才をもつ我王が許せなくなるのです。これまでずっと善を基盤に生きてきた茜丸だったのに、ここで一気に悪へと落ちます。「この男は強盗で人殺しだ」と叫び、我王の残された腕が切り落とされるのを見て安堵するのです。自分の出世や栄誉をはばむ者がいなくなったからでした。これに対して我王は己の罪をよく知っており、両腕を失っても誰を恨むでもありません。この後も都から離れた村々をまわり、道ばたや洞窟の中に仏像や鬼神像を作り続けます。口にノミをくわえて彫ってゆくのです。彼のまわりには小鳥や小動物が集まり、作品を愛する農民たちが食べ物を持ってきます。

 このマンガは、壮絶な人生を送った悪党が最終的には人を救う存在になっていき、善意の主だったはずの人間が醜い嫉妬を胸に抱えていたことを知るという、一種の恐ろしさがあります。人間性の複雑さと面白さに胸を打たれることでしょう。

 

P130

 笑いは宇宙最大の謎

 漫画家 長尾謙一郎

『ギャグゲリラ』 赤塚不二夫 文春文庫

ギャグゲリラ 1

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 赤塚不二夫の『ギャグゲリラ』は、人生を変えてしまう本です。これはとても危険なものでもあります。現代の「ツッコミ」のように、本来のギャグマンガは説明をしません。赤塚不二夫は説明をせず、むしろ以心伝心で、言葉を超えた共感のレベルでなにかを伝えていきます。・・・

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 僕がギャグマンガの洗礼を受けたのは、小学生の頃に読んだ『情熱のペンギンごはん』(ちくま文庫)です。すでに絶版ですが、糸井重里さんと湯村輝彦さんによるこの本を読んで、「これだ!」と思いました。・・・

『情熱のペンギンごはん』の面白さを説明するのはむずかしい。赤塚、谷岡マンガにも共通しますが、一線を超越したギャグマンガは〝意味〟や〝言語〟を超えています。どうして面白いのか〝意味〟を説明した瞬間にその面白さは消えてしまいます。それを承知で一度解説してみましょう。リゾートホテルのフロントでチンピラのペンギンが、ある母子にむかって「金が払えないとはどういうことだ」とすごむシーンがあります。そして子どもは「ママ、ぼくたちどうなっちゃうの?」と二人で泣くのですが、最後のコマに作者のナレーションが「べつにどうなってもかまわないと思う。こんなシーンでハラハラする読者なんていないんだから」と入って終わる。こんなに身も蓋もないやり方で、話を成立させてしまう。

 ここまでくると、もはや娯楽としてのマンガというよりも、身のこなしについての本とも言えます。真面目さや、社会の常識といったものに対して、足払いを食らわせる方法を教えてくれるのです。それは、あらゆる決まり事を振り払って、まるで子どもが自由に遊ぶように、世界を無限にひろげてくれるものです。・・・

 

P142

 誰でも幸せになれる青春の教科書

 タレント 宮田俊哉Kis-My-Ft2

とらドラ!』 竹宮ゆゆこ 原作/絶叫 作画/ヤス キャラクターデザイン KADOKAWA

とらドラ!(1) (電撃コミックス)

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 今、青春を謳歌しているキミに、僕が学生時代に読んでおきたかった『とらドラ!』を紹介します。僕がこの作品を知ったのは高校を卒業した後だったんだけど、もし先に出会えていたら学校生活が絶対違うものになっていたと思うくらい、笑えて泣ける大好きな作品です。・・・

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 ・・・『とらドラ!』の登場人物は、みんながまっすぐで、みんなが我慢してるんです。みんな、周りから見えている自分とは違う自分を心の中に持っていて、ストーリーが進むごとにその内面が明らかになっていきます。その描写が本当に巧みで、気が付くとすべての登場人物を好きになっているんです。・・・

 この作品には「目に見えることは本当なんかじゃない」っていうことがあちこちに出てきます。竜児の家は母子家庭で、お母さんは水商売をしていて家事は竜児にお任せ。いつも朝方に酔っぱらって帰ってくるようなお母さんだけど、竜児のことが大好きで、とても幸せに暮らしています。大河の両親はお金持ちだけど離婚していて、子供のことはほったらかしにしてしまう。一方で北村のように恵まれた家庭の子もいる。いろいろな家庭環境があるけれど、どんな環境で育ってもちゃんとわかり合えるっていうのが良いなと思います。生徒会長とヤンキーだって仲良くなれる。

とらドラ!』には恋愛も友情も家族愛も、全部詰まっています。

 本音を言い合える相手なんてそう簡単に見つからないんだけど、でもだからこそ相手のことを思いやって、自分の気持ちを伝える勇気を出す。そうすれば立場が違う人ともわかり合うことはできるし、誰でもきっと幸せになれる。『とらドラ!』を読んでいると、自分もそんなふうになりたいし、なれるんじゃないかと思わせてくれるんです。