ルポ 雇用なしで生きる つづき

ルポ 雇用なしで生きる――スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦

 つづきです。

 銀行のロビンフッドの話や、家賃15ユーロの家など、興味深かったです。

 

P128

 社会福祉・教育関係の労働者協同組合をもう一つ訪ねてみよう。・・・通称GEDIだ。

 GEDIは、社会的目的を持つ協同組合として、カタルーニャ州各地とモロッコで活動している。・・・そのテーマは、次の六つだ。

 

・社会復帰や就労の支援

・家庭や社会で問題を抱えた子どもや若者への支援

有機農産品の生産・消費・加工に関わる組合の運営

・移民の子どもへの支援や社会的協同組合の普及に関するモロッコでの国際協力事業

・連帯感のある健全で平等なコミュニティづくりの支援

・子どもや家族の心身の健康、教育、生活の支援

 

 取材したのは、この中の二番目のテーマ「子どもや若者への支援」の一つとして実施されているプロジェクトだ。・・・

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「私は学校を中退した子どもたちを対象にしたセンターや、子育て家庭のネットワークづくりを支援するプロジェクトで働いた後に、ここへ来ました。GEDIのことは、前にインターンとして働いた時から知っていて気に入っていたので、入れてよかったと思っています」と、ジェマさん。

「ただ、以前はザンビアセネガル、モロッコといった国の子どもたちが多かった分、難しいのは主に言葉の違いなどでしたが、今はこの地域の家庭で問題を抱えている子の割合が増えたため、少年本人だけでなく、家族、学校の友人、教師など、彼らと関係のある人全員に関わる必要が出てきました。仕事はより複雑になったわけです。でも、やりがいは増したと言えます。とても深い孤独を抱えた子、見捨てられたという思いの強い子が多く、最初はなかなかここにいる必要性を理解しようとしません。そこを少しずつ変えていき、センターでのケアを受け入れられるように支えるのが、私たちの大切な仕事なんです」。

 仕事が大変なことを愚痴るより、むしろやりがいと受け止めているのは、職場環境が良いせいだろう。いや、「自分たちでそうした職場を創り上げてきた」からこそ、と言うべきか。

「私はここへ来るまで、企業や州政府のような公的機関が運営する若者向けのセンターや高齢者支援施設、障がい者支援施設などで働いていました。そこにいる時は、その施設の予算がどう使われているのか、まったく知りませんでした。でも、ここでは自分たち自身が自分たちのために、より有効なお金の使い方、仕事の仕方を考えることができます」。

 ジャスミーナさんは、労働者自身が出資して働く労働者協同組合の良さを、そう指摘する。

「もちろん考えることが多い分、面倒とも言えますが、関わることは楽しいです。だって給料もすべて組合員であるスタッフ皆で話し合って決めますから、納得がいく。それに、ここでの給料は、普通の企業が経営する施設のそれと変わらないし、時には私たちのほうが高給なことすらあるんです。皆が責任を追っている分、参加しがいもある」。

 

P135

 ・・・COOP57は、GEDIのような社会的連帯経済関係の団体を対象に資金の貸付けを行う協同組合だ。

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 普通の銀行と異なり、特に担保などを取らない彼らが、どうやって貸付け相手を審査し、信用できる相手であるか見極め、返済を保障しているのだろうか?

「各地域のCOOP57には、貸付けの審査・決定担当の「技術委員会」があります。この委員会が、貸付けを求めてきた団体の財政状況や、プロジェクトの中身が必要な利益を上げられるものかどうかを審査します。とはいえ、相手はもともと信頼関係でつき合っている組合員ですから、よほど問題がない限りは、貸し付けます」。

 シャビさんはそう説明する。それで本当に返済されるだろうか?

「万一、プロジェクトが思い通りに進まず、返済が期限までにできなくなったとしても、皆すぐに相談に来るので、そこで返済期限を延ばす、あるいは一度の返済額を減らして返済回数を増やすなどして、対応します。だから、これまでに完全に返済不能になったケースというのはほとんどありません。それにそもそも、大抵は労働者協同組合が借りているわけですから、返済が難しくなってくると、組合員それぞれが、私はこの分を立て替えましょう、と申し出るという具合に、組合全体の信用のために動きますから、踏み倒しはないんです。資本主義経済とは違います」。

 要するに、『雇用なしで生きる』著者のフリオさんが話していたように、一般の銀行ならばお金と契約書がすべてだが、社会的連帯経済の中では何事も「信頼」に基づいて動くということだ。

 

P148

 スペインの協同組合法の中できちんと規定された協同組合の形として、「総合協同組合」というものがある。それは消費者協同組合の要素、労働者協同組合の要素など、複数の性格を備えていることで、そう呼ばれている。私たちが取材し、これから紹介する「カタルーニャ総合協同組合・・・以後CIC」は、実はこの組合法で言うところの「総合協同組合」とは少し異なり、消費、自営業、農業、教育、金融など、あらゆる側面をカバーする、特別な組合組織だ。・・・

 このユニークな組織を立ち上げた人物は、日本人には考えられないほど、異色な存在だ。・・・

 エンリック・ドゥラン・・・一九七六年生まれのカタルーニャ人で、一〇代の頃はプロの卓球選手だったという、ちょっと変わった経歴の持ち主だ。卓球選手権で、試合が全参加チームにとって公平な当たり方になるようなトーナメントシステムを考えるなど、子どもの頃から公平さを求める性格だった。

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 ・・・彼は・・・根本的な変革を起こす方法も考え続けていた。「オルタナティブな経済システムを築く手順」だ。本を読みあさり、ネットで調べ、専門家との議論を積み重ねる中で、ひたすら「お金」について研究していった。彼曰く、「(その期間に)お金の本質を徹底的に学んだ。その結果、世界の債務問題を金融エリートたちの都合に合わせた形にしていくのが、〝お金〟というものだと気づいた」。

 この気づきが、彼にその後の大胆な行動を取らせることになる。「巨大銀行こそが、世界に不公平、不正義をもたらしている張本人だ」。

 そう確信したエンリックは、その事実を逆手に取り、巨大銀行を利用して経済システムの変革を起こそうと考える。それこそが、彼を「銀行のロビンフッド」に仕立て上げた事件の発端だった。

 ・・・その事件の経緯は、こうだ。

 彼と友人はふたりで、お金を銀行から自分たちの手元に集めるために、二種類のアイディアを思いつく。大勢の仲間それぞれが少しずつ銀行からお金を借りるという案と、ニセの「映画製作」プロジェクトを作り、その資金集めを通じて複数の金融機関からお金を調達するという案だ。ところが、ともに計画を立てていた友人が突然、自動車事故で亡くなってしまう。・・・そこで熟考の末に、二〇〇五年頃から単独で、自動車購入資金のローンを組んだり、ペーパーカンパニーを作ってニセの事業プロジェクトを作成し、融資の依頼をしたりすることにした。・・・その結果、銀行など三九の金融機関から、何と六八件の融資を獲得することに成功したのだ。

 二〇〇八年九月一七日、彼は自ら編集したフリーペーパー「Crisi(危機)」を二〇万部発行。カタルーニャ中で配布し、その紙面でこう告白した。「私たちから盗んでいる連中を告発し、オルタナティブを築くために、私は連中から四九万二〇〇〇ユーロ(約七〇〇〇万円)を盗んだのだ」。

 それはエンリック・ドゥランから既存の資本主義経済システムへの、中でも特に金融システムへの宣戦布告だった。しかも、それは偶然ではあるが、ちょうどリーマンショックが起きた二日後の出来事だったのだ。

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 そうした彼の行動は、金融界に衝撃を与えた。マスコミは彼を「銀行のロビンフッド」と名づけ、盛んに報道した。被害者側は直ちに法に訴え、警察はエンリックを指名手配する。が、その時、彼はすでにバルセロナを離れ、隣国ポルトガルの首都リスボンを経由し、ブラジルに到着していた。

 それにしても「盗んだ」お金は、どう使ったのだろう?

「お金はすべて、カタルーニャを自転車でまわって脱成長を訴える活動や、フリーペーパー「Crisi」を発行する費用などに使いました」と、エンリック。つまり、この「大泥棒」は盗みを、自分のためにではなく、社会変革のために行ったのだ。

 

P170

 先陣を切る。それは、いつの時代にも「変革」をもたらすために必要なことだった。エンリックたちの活動拠点であるカタルーニャとは正反対に、現代においても農業中心の経済構造を維持している南部アンダルシア州にも、組合主義をベースに理想のコミュニティづくりを推し進めてきた「先駆者」がいる。人口二七〇〇人ほどの村、マリナレーダ・・・の人々だ。

 この村は、二〇〇八年の金融危機以降、不動産バブルの崩壊によって引き起こされたスペインの経済危機の中、三〇%を超える国内最高失業率を記録したアンダルシア州にあって、ほとんど失業者を出さなかった。・・・

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 ・・・サンチェス・ゴルディージョ村長にインタビューを申し込んでおいた・・・

 ・・・インタビュー開始。

「あなたは共産主義者ですか?」。まず最初にそう問うと、彼は目を見開き、真面目な顔をして、「私はごちゃ混ぜ主義者です」と答えた。

「自ら慎ましく生きたイエスを支持するキリスト主義者ですし、社会主義コミュニズムも支持しています。富は皆で分かち合い、皆に関わることは皆で決める、アナキストでもある。そして何より共同体主義者です。ガンジーゲバラの思想にも共感しています」。

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 二〇一五年、一〇度目の当選を果たした髭村長・・・

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「私は村人全員が村長であるべきだと思っています。だから、ここでは住民総会が最高決定機関です。村のことはできるだけ多くの住民が集まって議論し、決定するのです」。

 執務室の隅には、大きな紙に手書きで書かれた予算案が何枚も束ねられ、日めくりのように綴じられたものがある。何に使うのかと尋ねると、「これを持って村をまわり、予算を説明します」という答えが返ってきた。予算も村人の意見を徹底的に聞いてから決めるということだ。

 髭村長は、村長職の報酬も受けとらない。村の高校で歴史を教えて生活している。そんな彼の情熱に導かれ、マリナレーダの村人たちはこれまでに、実に多くのものを勝ち取ってきた。

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 スペインでは、経済危機によって住宅ローンを返済できずに家を失う人が続出したが、ここでは自ら建設作業に参加しさえすれば、月一五ユーロの家賃で立派な家に住むことができる。建築材費や技師と左官の賃金は、すべて州の助成金から村が出してくれる。

「私もその一つに住んでいます。見に来ますか?」。村長にそう誘われて、「家賃一五ユーロの家」を見学することに。・・・一階には居間と書斎とキッチン、そして車庫付きの広い中庭があり、二階には寝室が三つもあった。随分と広い。

「これって、外国人でも住めるんですか⁉」。思わず尋ねると、「長く暮らすのであれば、建設作業に参加することで、それも可能です」と、村長。そしてこう続ける。「住宅とはそもそも投機の対象ではなく、人間なら誰もが持つ権利のあるものです。今ある住宅問題は、資本主義が人工的に創り出したものなんですよ」。

 つまり、投機は住宅を持つ権利を人間から奪う原因を作っているというわけだ。だからここでは、「家賃一五ユーロの家」を買って転売することは、堅く禁じられている。