「抗がん剤を使わなかった夫」の中に、この本の制作が間に合ってよかったという話が出ていて読みたいと思いました。
破天荒とはこういうこと?こんな人生もあるのですねと驚きました。
P63
叶井 オレは23歳ぐらいにハワイから帰ってきて、91年にアルバトロスに入ったから。このままハワイにいたらオレちょっとやばいなって。
Kダブ 堕落しちゃうって?
叶井 オアフ島の「RADIO KOHO」という日本語のラジオ局でDJのアルバイトを1年ぐらいしていて。そこで「DJウメ」って名前で『ココナッツ数珠つなぎ』という月~金の帯番組やっていたんだけど。
Kダブ 『ココナッツ数珠つなぎ』?へぇー、何その番組。
叶井 ワイキキやアラモアナのビーチにテレコを持って行って、日本人の女のコの観光客グループに「どこから来たの?」みたいなインタビューする企画を、何人かの日本人留学生と考えたんです。ナンパ目的で。・・・15分ぐらいの番組だったけど、当時なんてハワイに住みながらラジオの仕事をしているだけでモテモテだったから。
Kダブ いいなあ。そのままハワイのお土産屋にならなかったの?よく日本に帰って来られたね。
叶井 個人旅行が少し流行ってきた時代で、まだネットや携帯もないから、そこで仲良くなった女のコたちがよく、往復チケットだけ買ってオレの部屋に泊まりに来て。大変だったよ。当時の予定表とかぎっしりで、何回ダブルブッキングしたことか。めちゃくちゃだったね。
Kダブ やっぱり〝だめんずの中のだめんず〟だね。〝キング・オブ・だめんず〟だ。・・・
・・・
―余命半年と宣告され、1年がたち今日に至っているんですが、最初に叶井さんの病気について伝えられたときは、どう受け止められましたか?
Kダブ うーん。どう受け止めていいか分からなかったですよね。「本当に~?」みたいな。初めて聞いた日はまだがんの症状も今ほど進行してなかったし、「やりようによっちゃ、どうにかなるんじゃないの?」って感じも、しばらくありましたよ。
叶井 コッタは、あれ飲めこれ飲めっていろんな切り抜き動画とか送ってくるじゃん?それで、くらたまがKダブのファンだから「Kダブさんからガンに効く飲み物の情報とか送られてきたら私にも転送しろ」ってオレに言うんですよ。仕方なく報告すると、その飲み物とか錠剤とか買ってくるんです。オレもイヤイヤ飲んでみるんだけど、超マズいわけ。・・・2回ぐらい挑戦したけど無理だったね。マズすぎて。
Kダブ そういうのが効くかもしれないじゃん?もう全然オレの言うこと聞いてくれないんすよ。
叶井 いや、オレは無理はしないから。やっぱりがんになってから、周りの人は「仕事休んで旅行とか好きなことやんなよ」とか言ってくれるんだけど。
Kダブ スイスとか行きなよ。
叶井 それ安楽死じゃねーか!
P122
叶井 90年代後半は、なんでも売れてたからね。
柳下 アルバトロスは特にね。ビデオバブルもあったし。『ネクロマンティック』とか、当たったでしょ。
叶井 ・・・『ネクロマンティック』は、本国で発禁になってたでしょ。・・・
柳下 主演のやつが日本にいたんだよね。ダクタリっていう。
叶井 ダクタリ・ロレンツ。三茶に住んでた。・・・電話番号もあったから、電話したの。日本語で「はいー」って出たから、「ダクタリさんですか?」って聞いたら、「そうです」って。で、『ネクロマンティック』を買い付けたって伝えたら、「えっ⁉」ってすごい驚いてて、「ちょ、ちょ、ちょ、すぐ会いませんか」って。焦ってたなぁ。
柳下 はははは。
叶井 その日の夜に渋谷の喫茶店で会ったの。・・・「『ネクロマンティック』を買ったって、どういうことでしょうか?」って言うから「買い付けたから、日本で公開するんですよ」って言ったら、「やめてください」って言うのよ。なんでかって、自分は今、『ネクロマンティック』のせいでドイツに住めなくなったと。主演で、発禁とかニュースになってね、だから日本に来たんです、と。
柳下 その日本で公開されたら、たまんない。
叶井 日本で英会話のNOVAで先生やってるんですよ。ドイツから追放されて、そんなのを出されたらNOVAもクビになると。どうにかなりませんか、と。そんなの面白いからさ、すぐ思いついたんだけど、「ドイツの変態俳優、極秘来日!」ってことで来日キャンペーンをやっていいかって。それで3万円あげるって言ったら、やりますって。あのころはネットもないから、95年かな、渋谷の東急インかどこかの安い地下ホール借りて、記者会見やったんですよ。「ネクロマンティックの変態俳優、緊急、極秘来日」みたいにして、通訳の方も呼んで。そしたらスポーツ新聞とか、宝島の「CUTiE」だっけ、サブカルの女性誌が来て。
柳下 騙されてんじゃん、みんな。
叶井 ネットがない時代だから騙されちゃうんだよね。結局、それが大々的な記事になって、NOVAはクビになっちゃったの、すぐ。
柳下 あはははは、最悪じゃん!
叶井 「ミスターカナイ!クビになった!」って。こっちも「申し訳ない!」って。
柳下 そりゃクビになるよね。
叶井 それで、クラブのDJの仕事を紹介したんだけど、しばらくしたらドイツに帰ってさ。そのドイツから連絡があって、「モスラのラジコンを買ってくれ」って言うのよ。「デカめのモスラで」っていう指定があって、5万とかお金も送ってきたから買って送ってあげたんだけど、その半年後くらいに、たまたまオレが『キラーコンドーム』を買い付けるわけです。で、見てたらさ、エンドロールのプロデューサーのところにダクタリ・ロレンツの名前が入ってる。すぐ電話して、「キラーコンドームという映画を買ったんだけど、部屋で見てたら、あんたの名前出てる」って言ったら、「あー、カナイに連絡するのを忘れてた」「おまえに買ってもらったモスラ、キラーコンドームの劇中に入れてるんだよ」って。見直したらさ、ラストに巨大コンドームが出てくるじゃん、そのコンドームの中にモスラが入ってて、ウネウネ動いてんだよ。それは、オレが買ってあげたやつなの。自分が買ったモスラが、自分が買い付けた映画にたまたま出てたの。
柳下 狭いな、世界は。
叶井 けっこう感動的な、運命的な、そういうことがあったんですよ。偶然が重なってね。
P200
河崎 ・・・あなたは。けっこう真面目なんだよ。やってることはいいかげんだけどね、仕事には真面目。だから信用できる。
叶井 それは映画館にも言われたことあるな。朝ちゃんと来てるっていうのは。映画館って朝早いからね。
河崎 あとさ、あなたは細かいこと言わないもんね。仕事するとき、映画作るときにさ、この女出してくれとか、脚本こうしてくれとかさ、一切言わないもん。
叶井 言わないね。
河崎 はっはっは。下手したら出来上がった映画も見てないもんね。
叶井 さすがに見てるから!
河崎 脚本も読んでないもん。そういう人はね、無責任というんじゃなくて、だいたい天才の人はそうなんですよ。テリー伊藤さんも、昔オレのバカ映画にお金出してくれたんだけど。あと、実相寺昭雄監督ね。ああいう人たちは何も言わない。すごいと思うよね。小モノほどなんか言うじゃん。会議ばっかりしてさ。天才は細かいことをさ、一切言わないもん。そこがいいよね。一緒に飲んでても、がんばろうとか、そういうことも言わないし。
叶井 ははは。
河崎 酒飲めないしね。
叶井 酒、飲まないですね。
河崎 いかにくだらないことをやるかってことに終始しててね、稀有な人ですよ。
P302
中村 ・・・私、叶井さんに会うのにさ、一番心配だったのは、・・・余命とか体調は心配したってどうしようもないじゃない、だけどさ、鬱になることなんだよね、いちばん問題なのは。
叶井 鬱になるっていうのは、オレはちょっと分かんなくて。
中村 そうだよね、元気そうだからさ、こうやって本出すなんて気になるってことは。
・・・だから前向きだなと思って。よかった、この人は、精神的に本当に強いと思った。
叶井 うん、そうかもしれない。まったく死に対しての恐怖もないし、未練もないから。やっぱり周りは、残りの時間は、仕事辞めて家族と旅行したり、くらたまといろいろ向き合ったほうがいいよって言うけど、そもそも15年間毎日会ってるし、改めて向き合うことってないですよ。
・・・
だったらもう何がしたいかってなったら仕事しかなくて、そのまま日常生活を送ってるわけですよ。
中村 やっぱり、あなたにはそういう精神性があると思う。
叶井 精神性?
中村 強い、雑草のような。強靭なね。
叶井 精神が強いというより、何も考えてないんだよね。精神的なところで、鬱にもならず、悲観もしてない。どうせオレ死んじゃうし。逆にがんだってことを周囲には公表してるんで、仕事がやりやすいよね。「末期がんだろ、やってあげるよ、最後だから」って、みんな協力してくれる。
中村 私さ、叶井さんのことをさほど知ってるわけじゃないけどさ、やっぱりある程度は、人から聞いた話とかで、いろいろ叶井さん像っていうのがあるわけじゃない。それで、今まで叶井さんを見習おうと思ったことは一度もないんだけど。
叶井 はっはっはっは!
中村 今日初めて、このメンタルはみんな見習うべきだと思った。あなたの女癖とかさ、だらしないところだとか、ちゃらんぽらんな生き方とか、金の使い方とか、貯金がないとか、そういうところは、こんな人マネしちゃダメだよって思うけど。
・・・
だから、なんというか、あなたはひとつの人間界の「希望の光」だよね。そう思うよ。
