じゃんぽ~る西さんの漫画に出てくるカレンさんがユニークで面白かったので、著書を読んでみました。
P7
今では日本語の読み書きも覚えた。もちろん、複雑で奥深いのが日本語の最大の特徴。勉強に終わりはないけれど、だからこそ、わたしはすぐ日本のとりこになったのだ。日本にいると、言葉も何もかも、あまりにもわからないことだらけ。理解したい、学びたいと、好奇心のかたまりになる。ずっとその気持ちに突き動かされてきた気がする。
来日するたび、自分が何も知らない子どもの頃に戻ったような気がした。すべてゼロからやり直せるような感覚だった。
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なんて幸せなことだろうと思う。右も左もわからない外国で、歴史、社会習慣、マナー、共同生活、何から何まで子どもにかえったように、1から学び直す貴重な体験をしているのだから。生まれ変わるってこんな感じかしらと思う。それも大人のまま生まれ変わっているから、自分の国との違いを比較することまでできるのだ。
P26
日本の男性がイタリア人ほどナンパをしないのは、自分になかなか自信が持てないからかもしれない。もしかすると、失敗したときのまわりの目が、こわいのでは?
フランスには、社会全体にもっと自由な空気が流れていて、異性にも気軽に声をかけやすい雰囲気がある。たとえ結果がダメでも、長続きしなくても、みんなあまり気にしない。失敗も人生の一部ととらえて流すことができる感じだ。
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誰でも、1度や2度くらいパートナーを間違えてもたいしたことはないのに。失敗も練習のうち。それに失敗から学べることはたくさんある。人間関係についてはもちろん、自分のセクシュアリティや好みについても。
P33
・・・日本とフランスでは学校制度だけでなく、人づきあいのスタイルもだいぶちがう。日本人は、わりと同じ場所に通う人間どうしが仲良くなり、グループをつくる傾向があると思う。学校や職場が同じだったり、あるいは共通の趣味があったり、年齢が近かったりして共通点が見つかると、友情が芽生えやすいようだ。
だから男女別々に集まるとしても、不思議ではない。性別もまた、グループを分ける特徴の1つなのだろう。男か女かというのは、パッと見て判断できる。わかりやすい特徴だから、どんな場所でも、その場に何人いようとも、性別でグループをつくるのが誰にとってもフェアな感じがするのかも。同性どうしなら、共通の話題も見つけやすい。
ところがフランス人には、そもそもあまりグループをつくるという習慣がない。基本的に性別は気にせず、直感で仲良くなれそうな人間を見つけて、自然に友情が生まれていくという感じ。
そのせいかもしれないが、日本とくらべて、社会から「理想の女性像」や「あるべき男性像」を押しつけられることも少ないと感じる。ついでに言えば、年々増加しているホモセクシュアルのカップルも、社会的に、ヘテロセクシャルのカップルたちと変わらない扱いをうけている。
P37
じつはフランスでは、見ず知らずの相手にも、公共の場で居合わせたらふつうに声をかける。日本ではだいぶ勝手がちがうので、わたし自身、いまだに戸惑うことも多い。
想像しにくいかもしれないけれど、パリのメトロでは、隣の人が読んでいる本が面白そうだと思ったら迷わず声をかけ、感想までたずねる。これは、非常識どころか、フランスで見られるとても自然な光景だ。すれちがいざまに人と目が合えば、おたがいに微笑み合うのがふつうだし、時間を知りたければ、「すみません、今、何時ですか?」と、そばにいる誰かに、気軽に声をかける。
それから、カフェなどで、隣の席のお客さんと、一言、二言交わしているうちに話が弾んで、知らずしらずのうちに会話を楽しんでいたなんていうのも、よくあること。
フランス人にとって、毎日は、他人とのふれあいや、<偶然の出会い>であふれている。そのほとんどが恋愛にまでは発展しないけれど、そこから男女のおつきあいが始まることだって、ときにはある。
P171
ニッポンのサラリーマンの有給休暇取得率は、平均すると、50パーセントにも満たないそうだ。しかも長い間、この状況には変化が見られないそうで、これを聞いて、驚かないフランス人がいるだろうかと思ってしまった。
だってフランス人にとって、仕事とは、お給料をもらいながら定期的に休暇を楽しむことを意味するようなものなんですもの。与えられた有休を半分も利用しないなんて、思いもよらない人生の送り方だ。
フランス人の有休取得率の平均は100パーセント!しかもフランスの有給休暇は、日本とくらべてずっと長い。最低でも年間で5週間は保障されているのだ。
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驚いたことがもう1つある。日本人が、病気をして休む必要があるときにまで有給休暇を使っているということだ。かつて、わたしは病気をして、10日間自宅療養をしなければならなくなった。すると、会社で労務を担当する日本人の女性(とても優秀な女性だ)がやって来て、親切にも診断書を提出して疾病手当金などの申請をすることはやめて、残りの有休を使うようにとアドバイスをくれたのだ。
「実際にわたしは病気をしたんです。手当を受け取る権利があるというのに、それではどうして毎月社会保険料を納めさせられているのでしょう?大事な有休を犠牲にする意味はないと思います」
こう断って、きちんと手当金の申請をさせてもらった。とはいえ、同じ会社で働く日本人の同僚たちが、もし病気で10日間休まなくてはならなくなった場合には、きっとわたしと同じようなやり方はしないだろうと思う。それに、実際の手続きは、会社に提出する診断書を病院が発行してくれるまでに時間がかかったり、発行手数料をいくらか取られたりと、面倒な面もあった。
P200
フランスの郵便局も、24時間から48時間で、全国どこでも配達が可能という点では、日本の宅配便サービスと変わらないように見える。ただし指定の配達時間どおりに届けてくれるかどうかはかなりあやしいところ(時間内に配達できないときは送料を返済してもらえることになっている)。しかも配達の途中で荷物が行方不明になってしまったり、誰かに開けられてしまったり、間違った住所に届けられてしまうなんてことまである。
こんな、あまりにもひどいフランスの郵便局の配達事情は、じつは雑誌にも取り上げられてしまうほどで、実際、フランス消費者組合連盟が発行している機関誌「UFC ク・ショワジール?」が「ラ・ポスト(郵便局)は、利用者をバカにしているのか?」というタイトルで2013年に取り上げている。
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なんと、2011年の調査当時、紛失被害に遭った人々からのクレーム件数は、1年間に約140万件もあり、さらにこの数字は前年度の2010年とくらべて4万件も多いのだという。
実際、大勢の被害者が、理由もわからないまま荷物を紛失されたとネット上に書き込み、不満の声を上げている。・・・
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わたし自身にも、同じような経験があるので気持ちはよくわかる。だからこそ、日本の郵便局や宅配便サービスの優秀さには心底感動してしまう。郵便局の受付の人や、荷物を配達に来た宅配便のドライバーさんに、いちいち抱きつきたくなってしまうほど。それくらい、日本のサービスは非の打ち所がなく、カンペキなのだ。