つづきです。
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大学2年 りょうま
僕は高校時代、国立の中高一貫校に通っていました。帰国子女が多い学校で、探究学習に力を入れているところが特徴です。
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ただ、高校2年生の時に炎症性腸疾患になったんです。「クローン病」と言われる難病。・・・
手術の後、目を覚ますと、点滴や痛み止め、体内を洗った後の廃液を外に出すドレーンなど体から8本の管が出ていて。それを見て、「サイボーグか、俺は」と思いました(笑)。そんな状態だったので、現役での大学受験は無理で、浪人することになりました。
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その後は一浪して立命館大学の政策科学部に入りました。
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いまフォーカスしているのは、コミュニティディベロップメントです。NPOや一般社団法人のように既存の社会課題に取り組む人は年々増えていますが、すべての社会課題に取り組むにはリソースが限られていると思うんです。
だから、生活に密着した身近な課題は地域の人々が自分で解決するようになれば、投じるべきところに必要なリソースが届くことになるのでは……と思って、コミュニティデザインの理想の形について学んでいます。
まだ研究段階ではありませんが、香川県三豊市がモデルになり得るのではないかと思っています。三豊にいる人たちは、地域に二軒目に行く飲み屋がないから自分たちで作ろうという考え方です。これがとてもおもしろいな、と。
実は、浪人している時にAO入試でお世話になったハヤテ(田島颯)さんが三豊で新しい公共交通のサービスを始めたんです。タクシーの相乗り定額乗り放題のようなサービス。ほかにもいろいろな動きが起きていて、コミュニティディベロップメントの一つの形になるんじゃないかと思っています。
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プロジェクト・ゼンカイに参加したのも、直接のきっかけはハヤテさんです。
大学1年の2022年9月ごろ、プロジェクト・ゼンカイというプログラムが始まるという話をハヤテさんから聞いて。すぐに参加したいと思いました。
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・・・大学1年の10月からゼンカイ2期のTAとして参加しました。
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グループの参加者にはいろいろな子がいました。普通の高校に通っている人もいれば、部活に打ち込んでいる人、帰宅部の人、不登校の人などみんなバラバラです。
TAとしての僕のスタンスとして、1on1の時間は少しでもいいものにしようと考えていたので、話す内容は参加者に任せていました。・・・
いろんな相談がありましたが、「学校に馴染めず、居場所がない」という話はいまも印象に残っています。僕はその子の話しか聞いていないので、学校がどういう状況にあるのかがわかりませんが、話を聞いていて悲しくなりました。対人関係が理由だとしても、「なんでそうなっちゃうのかな」と。
「家族関係がうまくいかない」という相談もありましたね。家庭環境はその子にはどうにもできません。その子も自分がその家に生まれたことを持って生まれた運と捉えていました。そういう話を聞いていると、自分の無力さを感じますね。
僕は教育の分野に関心があるのですが、ゼンカイを通して、自分の見てきた世界がごく一部に過ぎないということがよくわかりました。僕の周囲にはそういう人はいなかったから。
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僕は難病になったこともあって、「受け取ってしまった」という感覚を強く持っています。こうしていまお話できているのも、いろいろな人に助けてもらったから。それって、僕が頑張ったというより運だと思うんです。
だとすれば、僕は受け取ったものを返していかなければならない。そう考えた時の、僕なりの返し方の一つがゼンカイでした。
病気でお世話になった人に感謝の気持ちを伝えると、「いいちゃんがそう思ったのなら、僕じゃなくて後輩に贈ってよ」と口を揃えて言うんです。「なんてかっこいいんだろう」と思いました。
いまの僕は、贈ってくれた当事者に何かを返すことはできません。であるならば、TAとして高校生に返そう。それを受け取った参加者が、また違う誰かに贈ってくれれば、幸せが循環していくだろう、と。
大学1年の時、WAKAZO(ワカゾー)という医学部の学生を中心とした学生団体の代表になったのも、受け取ったものを返していきたいと思ったからです。
もともとは関西万博の誘致活動をしていた学生団体でしたが、現在は「inochiのペイフォワード」をキーワードに、自分のヘルスケアデータを誰かのために提供したいという意思あるデータ提供を普及する活動を進めています。1年ごとに代表が替わるシステムだったため、2022年は僕が代表になりました。
いまは2カ月に1回、点滴を打っていますが、幸いなことに、病気の方は落ち着いています。ハッシャダイソーシャルからもらった刺激を基に、僕も何かをしていきたいと思います。
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僕は「縁」というものをそれほど重視していません。「会いたいな」と思う人には自分から会いに行くので。でも、三浦君の場合はすこし違いました。たまたま『夢をかなえるゾウ』の担当編集者が彼のことを知っていて、そのつながりで「一回、会おう」という話になったんです。
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僕が初めてハッシャダイソーシャルとかかわったのは、社会人メンターとして参加したプロジェクト・ゼンカイです。・・・
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ゼンカイのすごさについては既にいろいろな人が話していると思いますが、その中でも、僕はTAの存在にこそ価値があると考えています。
TAは僕のような社会人メンターと高校生の間に入り、彼らの話を聞き、時に励まし、時に泣き、彼らを優しく受け止めて安心して話せる場をつくる存在。この関係性に、いまの教育、あるいは社会に対する可能性を感じました。
僕たちのような社会人メンターは、ある意味で客寄せパンダです。特定の分野で知られている人が登壇することで、参加する高校生はアドレナリンが出るかもしれません。でも、これはいままでの資本主義の延長線上の話で、新しさはありません。
新しいのはTAと高校生の密度の高い関係性です。この関係性は、参加した高校生の人生の深い部分に触れ、伴走しながら良い方向を目指すことができる。社会が本質的に求めているのは、こういった関係性だろうと思います。
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三浦君がいろいろな人を惹きつける理由は、彼に嘘がないからだと思います。仕事をしていると、嘘が混じる瞬間があるじゃないですか。社会活動にしても、人によってはどこかに偽善を感じる瞬間がある。でも、彼には嘘がない。彼がやると、そういう偽善を一切、感じない。それは、本音で、やっているからだと思います。
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・・・僕たちや、僕たちの親の世代が自己実現のためにしてきたことであったり、自己成長や学歴を重視するような価値観であったり、そういったもののしわ寄せが10代、20代の若者に向かっていると思うんです。
だから、彼らには僕たち上の世代の価値観をぶっ壊してほしいし、実際、それをやり遂げることになるでしょう。本当に、彼らには希望しか感じません。
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この間、久しぶりに恵ちゃんとごはんを食べたんです。二人っきりで食べるのはけっこう久しぶりでした。
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結局のところ、僕たち二人には「ありたい自分」があるんです。目の前に困っている人がいたら、手を差し伸べてあげたい。環境など自分以外の要因であきらめている人がいれば、勇気づけてあげたい。それでいて、常に楽しく本気で、時にバカバカしい。そんな「ありたい自分」でいるために、いろいろな活動をしている。
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恵ちゃんのすごいところ?………。「存在」かな。スペックという面では恵ちゃんは大したことないんですよ。仕事がメチャクチャできるわけでもないし、気合いでやっているところもあるし(笑)。でも、そういう話ではない。
彼がそこにいることで得られるパッションがあり、エネルギーがあり、優しさがある。だから、みんな恵ちゃんのところに集まる。
僕と恵ちゃんは、ホンダの技術と販売を支えた本田宗一郎さんと藤沢武夫さんのような補完関係にはありません。二人とも足りないところだらけで、何も補い合っていない。でも、機能ではなく、一緒に何かをしたいから一緒にいる。
足りない部分は、たかみーやアキ、ゆうじ君などソーシャルにジョインした仲間の関係性で補完できています。ゼンカイも成人式も、僕ら二人では何もできないので。
10年後のことはよくわかりません。10年後の自分もイメージできない。でも、このままみんなで年を取りたい。できれば、みんなと一緒に何かをしていたい。10年後にやっていることは変わっているかもしれないけど、考えていること、思っていることは変わらないと思う。
僕は、いまの積み重ねが未来になると考えています。そして、いまの偶発的な出会いが未来を変えていく。変わってほしくないものを大切にしながら、人との出会いで変わる自分を楽しみたい。そう思っています。